静岡大学人文社会科学部スペイン史を専門としている大原志麻先生に、ご自身が所長を務める「発酵とサステナブルな地域社会研究所(以下、発酵研)」についてお話をいただきました。
発酵とサステナブルな地域社会研究所とは?
発酵とサステナブルな地域社会研究所は、静岡大学の6学部からの教員が参加しているプロジェクトで、私は主に歴史学の観点から発酵の重要性を研究しています。
人類は発酵を通じて摂取できる食物の幅を広げ、特にアルコール飲料やワイン、ビールといったものは、ヨーロッパの都市社会の中心となり、社会文化や地域社会の形成にも大きな影響を与えてきました。発酵研では、歴史の中で失われたアルコール飲料を復元したいと考えています。特に注目しているのは、中世グルートビールの製造に使用されていたホップの一種「ヤチヤナギ」という現在では絶滅危惧種の植物。ヤチヤナギは現在、日本本州にはほとんどありませんが、北海道の林業試験場で保存されていたものを静岡に送ってもらい、それを育ててビールに使用したりしています。今はまだ試験醸造の段階で、静岡大学農学部の木村洋子先生の協力を得て、文理融合で研究を進めています。
ビールの起源は、パンにできないような穀物を発酵させ、栄養を摂取するために作られたと言われています。最近、バルセロナでヨーロッパ最古のビールを発見しました。発酵による味わいや香りが素晴らしく、歴史的に復刻されたビールを味わうことができました。当時は水が安全ではなかったことから、アルコールとして発酵させることで、安全に摂取できるということで、古代から重宝されていたと言われています。
シンポジウムを開催します!
静岡市が南アルプスのユネスコエコパークに登録されて10周年を迎えるのを記念したシンポジウムを静岡大学で開催し、発酵と地域の活用をテーマにした講演会や展示がおこなわれます。静岡キャンパスは11月2・3日に開催、浜松キャンパス(テクノフェスタ)は11月9日に開催予定です。※詳細はこちらのチラシから
11月2・3日の静岡キャンパスでは、静岡の自然やその利活用に関わるさまざまな専門家が登壇しました。11月2日は、『静岡の自然と利活用』をテーマに、井川蒸溜所(十山株式会社)さんと共同で南アルプスの高山植物でウイスキーを作る酵母研究をおこなう静岡大学の丑丸先生が司会進行、テレビにもよく出演している植物学者の静岡大学増沢先生が「南アルプスの自然の保全」についてを報告。ヤチヤナギを送ってくださる北海道の森林研究本部林業試験場で環境部長を務める脇田先生が、「静岡を南限とする植物の利活用」について講演。和ホップと呼ばれるカラハナソウの南限が静岡の川根地方であるといった話を紹介しました。
11月3日は、「グローカルな発酵文化と観光」をテーマに、チェコのビール文化に詳しい静岡大学の藤井先生が司会進行、「イギリスのエールビール文化」についてを静岡大学の鈴木実佳先生が話し、井川蒸溜所の平井さんが、「南アルプスの高山植物由来の酵母を使用したウイスキー作り」についてを紹介しました。さらに、発酵研副所長の静岡大学横濱先生が、「静岡市のクラフトビールツーリズム」について、昨年度の大河ドラマに絡めた「家康公CRAFT」というクラフトビール作りや観光資源としての活用について紹介しました。
静岡大学人文B棟105(常設展示)では、ビールやウイスキー、日本酒の文化、さらにはアイラ島のウイスキー文化といった盛りだくさんの展示もおこないました。
11月9日の浜松キャンパス(情報学部2号館1階 情13教室 14:00~16:10)では、ガストロノミーツーリズムと発酵食品の文化について紹介する予定です。
(大原先生が司会進行)ふじのくに地球環境史ミュージアムの佐藤館長が「浜松の伝統食」というタイトルで浜松の発酵食品文化について、井川蒸溜所の平井さんが「南アルプスの高山植物由来の酵母を使用したウイスキー作り」について、さらに、静岡県ガストロノミーツーリズムフォーラム統括コーディネーターの静岡産業大学岩澤先生が「浜松から広がるガストロノミーツーリズム」というタイトルで講演をします。
大原先生オススメのビールやワインは?
ヨーロッパでは、気候帯によってビール文化とワイン文化圏に分かれています。ヨーロッパのワイン、スペインのリベラ・デル・ドゥエロのワインは特に素晴らしく、赤ワインが好きな方におスス。白はバルセロナのカヴァが素晴らしいです。ビールは、新石器時代のビールの復刻版をバルセロナから分けてもらいました。美味しいとなると、チェコのビール、醸造所に併設されたビアバーがたくさんあります。先日、伊豆市のベアードビールで試飲しましたが、生のホップにこだわっていてとても香りが良く、美味しかったです。
次週11/11も発酵研の先生からお話をいただきます。