静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20250520 公開講座「伊豆半島の不思議なカタツムリたち」

伊豆を代表するカタツムリ「シモダマイマイ

「多彩な視点から学ぶ伊豆半島の自然と社会」というタイトルで、全5回、自然科学・人文社会科学の視点から伊豆半島について学ぶ公開講座を開講している東部サテライト。5月20日静岡大学理学部生物科学科伊藤舜先生を講師に迎え、第一回目となる「伊豆半島の不思議なカタツムリたち」という講座をおこないました。
このインパクトのあるタイトル。参加者の方からは「とても楽しみにしている」という声を多々いただき、中には自身が収集している貝をお持ちなった方もいらっしゃいました。

伊藤先生の専門は進化生物学や島嶼生物学。今回は、カタツムリの研究内容を中心に伊豆半島のカタツムリたちがどれほど魅力的なのかというお話をしていただきました。

令和7年度公開講座第一回目となる伊藤先生の講義

陸産貝類の多様性

タツムリというのは陸上に生息する貝類の総称で、特にキセルガイといった細いもの以外を指すことが多いです。陸にいる貝の名称は非常に多様で、柳田國男も「蝸牛考」の中で「蝸牛の如くおびただしい異名を持った生物は日本には居ない」と書いていますが、地域ごとに、カタツムリ、マイマイ、デデムシ、ツブリというように呼び方が異なっています。

陸上に生息する貝類、陸産貝類は、イカやタコ、ホタテといった軟体動物のグループに含まれ、その中に巻貝と呼ばれるグループがあり、その巻貝の一部が陸上に進出することで、殻を失う進化をしたナメクジであったり、殻を持ったまま陸上に進出したいわゆるカタツムリと呼ばれるグループというものが存在するようになりました。
このカタツムリ、陸にいる陸産貝類は、実は何度も陸上への進出を遂げたグループということが知られています。
皆さんがよく見るカタツムリには蓋がないですが、蓋を持つグループというものも存在しています。修善寺の辺りとかに少しだけいるのですけれども、基本的には蓋がないものが伊豆半島には多い。ですが陸産貝全体で見ると、蓋がないグループも蓋があるグループも何度か陸上に進出を遂げています。

陸産貝陸は形であったり、色であったり、模様であったりが多様性に富んでいて、同じ種同士でも大きさや色に多様性があります。
ナメクジの中にもコウラナメクジといって、殻が少し痕跡として残っているものいるので、殻の有無に関しても、多様性というものが知られています。
陸産貝陸の面白さはその多様性を調べることができることです。
進化は偶然起きたのか、それとも必然かということは長い間議論されています。偶然か必然かというのを調べるために、色々な形や色といった多様なグループを調べることで、その多様性が偶然に生じたのか、必然的に生じたのかというのを調べて、見出そうということが進化学の中で行われてきました。

その代表となったのがこのカタツムリたちです。(イギリスの事例写真を紹介)同じ場所にいる同じ種類のカタツムリでも黄色、オレンジ、黒まで、多様な殻の色をカタツムリは持っています。なので、何が原因で殻の色の進化が生じたのかということを調べることで、この進化が偶然か必然かということに対して、答えや一つの例を提示できる進化の教科書の題材として用いられてきています。

 

静岡県の陸産貝類

静岡県マイマイ属と呼ばれるカタツムリは、ハコネマイマイ、シモダマイマイミスジマイマイ、ミヤマヒダリマキマイマイなど、一つの県、一つの属でも何種類もいるというのが陸産貝類の特徴です。私たちの身近に多様な存在がどこにでもいるというのが、陸産貝類の面白い点です。

静岡県がここまで多様な理由はフォッサマグナが関係しており、東側由来の貝のグループと、西側由来の貝のグループ、それと伊豆諸島に由来を持つ陸産貝のグループというものが、ちょうどぶつかる地点が静岡県にあたります。ここまで多様な県というのはなかなか存在せず、優れた研究の地点と言うことができます。伊豆半島では、西側要素も、東側要素も、伊豆諸島の要素も、三つの異なる要素が入り混じった地点にです。この小さな半島の中に異なる要素の貝が存在しているため、多くの種類がこの地域で見られます。

 

静岡県の貝の歴史と伊豆半島に分布している種類

静岡県の陸産貝類についてこれまでどういう研究がおこなわれてきたのかを、私がおこなってきた研究と併せて見てみます。静岡県の貝の歴史の始まりは、ペリー提督が下田に来たときに由来しています。黒船来航の際に、その場所にいる生物を捕まえて、アメリカ本国に持ち帰り、どういう生物がいたのかを記録しています。日本に来た際の航海日記というものものが公開されています。この中で、貝類を集めたものが一つレポートとしてまとまっています。なので、この静岡県の貝の研究の歴史というものは、伊豆半島から始まったと言っても過言ではありません。
彼らが記録した陸産貝類のいくつかは、他の地域と同種ということで名前が消えてしまっていますが、一つ代表的な種類が残っています。それがシモダマイマイです。その後いろいろな研究がおこなわれ、ミスジマイマイの亜種としてシモダマイマイの名は残り続けています。下田の名前を冠して、学名の中にも下田が残されています。(Euhadra peliomphala simodae)

私はこのシモダマイマイの研究を続けてきていますので、シモダマイマイを通して、伊豆半島でどういう進化がカタツムリたちで起きたのかというものを見ていきます。
シモダマイマイが本当に下田にしかいないのかという研究が2000年にされ、それによると伊豆半島、あとは一部の伊豆諸島にしかいないというのは、どうやら正しいらしいです。シモダマイマイ伊豆半島の先(南部)にだけ生息しており、少し北上するとクノウマイマイがいて、もう少し北上するとミスジマイマイがいます。 この3種が伊豆半島には分布しているということがわかりました。

 

伊豆半島の代表的な3種と隔離について

どういうところにこの3種がいるのかをまず分かる必要があるので、そちらを最近、研究をしました。伊豆半島内でのカタツムリの遺伝的なグループを調べると、シモダマイマイ伊豆半島の南部にしかおらず、クノウマイマイは、主に松崎や河津、一部下田にクノウマイマイが入り込んでいるところがあり、その部分にシモダマイマイはいません。ミスジマイマイには伊豆半島に広くいるタイプと西海岸の本当に一部にだけいるグループがあることがわかりました。

なぜそのような分布になるかということを、遺伝子の交流が阻害されている場所、交流が盛んな場所から調べました。 天城山系は意外にも遺伝的な交流を妨げる要因にはなっていない一方で、西海岸は標高が低いにもかかわらず、遺伝的な交流が阻害され、それによって色々な集団に分かれているということがわかりました。西海岸には、カタツムリがほとんど生息できない場所もあり、遺伝子が交流できていない地点は、そもそもカタツムリが生息しづらいことが分かりました。生息しづらいということで、近距離ですら遺伝的な交流がなく、別の集団として維持されるという現象が見られます。

タツムリが地理的に隔離されやすいのか、ということで、どのくらい動くのかを調べてみました。その場所で採ったカタツムリに4,000個体ほどマークつけて、取った場所に放して、どのくらい動くのかというのものを調べたところ、ほとんど動きませんでした。10  mぐらいが平均的で、まれに80 m移動した個体もいましたが、この移動する能力の低さにより、隔離されやすいことで小集団化したのではないかということが考えられます。

伊豆半島北側、田方平野)平野部は時間をかければ、小集団として隔離されづらいということもあり、広く分布しているのではないだろうかと考えられます。
しかし、例えば(シモダマイマイとクノウマイマイの分布の境、下田と河津の境のあたり)には、集団の交流は阻害されているのに、カタツムリは住みやすい場所があります。なぜ行き来できる住みやすい場所なのに、阻害されているのかを考えてみます。

そこで大切な要素となるのが、カタツムリが雌雄同体であることです。彼らは、一度交尾をすればオスの役目とメスの役目を同時にするため、どちらも産卵することができます。
ミスジマイマイとクノウマイマイは、地理的に移動が妨げられていますが、クノウマイマイとシモダマイマイのぶつかりには地形がありません。
クノウマイマイとシモダマイマイは、生殖器の形が違うという視点からみると、やはり違っており、彼らは接触しても、交配することができません。これを生殖隔離と言います。

まずミスジマイマイが広く分布していて、その間にクノウマイマイがおり、一番下側にシモダマイマイがいます。ミスジマイマイとクノウマイマイの間には山であったり、住みにくい場所があるという伊豆半島の地形というものが大きな隔離の要因になっている一方で、クノウマイマイとシモダマイマイは、地形の影響はないけれども、生殖器や殻の形が異なっていることが隔離の要因になっているということがわかりました。

クノウマイマイミスジマイマイ、シモダマイマイ、どうやって見分けているのかということですが、クノウマイマイは丸っこい、ミスジマイマイは若干平たい、シモダマイマイはコロコロしていて、殻がやや分厚いという特徴を持っています。
他の地域のミスジマイマイやクノウマイマイは違った特徴していますので、これは伊豆半島限定の見分け方です。

違いが分かるでしょうか…?

 

シモダマイマイの特徴

伊豆半島を代表する貝ということで、シモダマイマイの面白さをご紹介します。本種は伊豆半島南部でしか見ることができませんが、伊豆諸島には分布していることがわかりました。伊豆半島および島間での遺伝的な関係を調べると、伊豆半島は基本的に一つの遺伝的なグループにまとまっています。利島、大島、神津島、新島、式根島と伊豆諸島は伊豆諸島の各島で遺伝的なグループにまとまるということもわかります。
そして、伊豆半島が祖先となって伊豆諸島へ渡って、島ごとにわかれていったということがわかります。

シモダマイマイは世界中でもこの限られた地域にしか分布していませんが、その中でも伊豆半島にいる集団は、最も祖先的なシモダマイマイということがわかります。集団が分岐してからの時間が長くなると遺伝的な多様性はより高くなる傾向があります 。遺伝構造を見ると、伊豆半島のものは伊豆諸島のものと比べて、遺伝的な多様性が高く、伊豆半島のものは祖先的で、より長い時間が分岐してから経過しているからということがわかりました。
このシモダマイマイが分岐した時代を推定してみると、大体200万年ほど前というところもわかってきています。

もう1つ面白い点はシモダマイマイの殻の色です。伊豆半島のものは伊豆諸島のものに比べて明るいものが多いです。伊豆半島と伊豆諸島で、殻にマークをすることで、殻の色と生存率を調べたところ、伊豆諸島では、明るい色も黒っぽい色もほぼ死ななかったのに対し、伊豆半島では黒っぽい色のシモダマイマイの生存率は低いということがわかりました。つまり黒っぽい色のものが伊豆半島で少ない理由は、すぐ死んでしまうから、何か不利であるからだと考えられます。わかったのは、伊豆半島の野外では明るい色が死ににくいから、明るい色ばかりいるということです。

伊豆半島と島を比較すると、伊豆半島にはネズミといった捕食者がいて、地面にいると食べられやすくなることから、住む場所が木の上に制約されます。この木の上の環境に適応することで、殻の色が明るいものだけが生き残りやすくなっていく。一方で伊豆諸島ではネズミがいないので、シモダマイマイは、地面に降りることもでき、地面で有利な方も生き残りやすくなり、黒っぽい色というものも現れて、殻の色が多様になるということがわかりました。実際にセンサーカメラで調査をしたところ、アカネズミがシモダマイマイの殻を割って食べていました。また、伊豆半島にはネズミが地面に多くいます。

まとめると、まず1つ、伊豆半島でのカタツムリは、急峻な場所といった地形で分布が決まっています。かつ、近似種がいることで、別の種類とは生殖器の構造の影響で交尾ができないような進化も生じています。かつ、伊豆半島は本土とも繋がっているため捕食者も多くいます。この捕食者たちがカタツムリを食べることで、彼らの進化は島とは異なるものへと遂げて、今その結果をこの伊豆半島全体で見ることができています。多様化したカタツムリを見て、興味深いというのを感じることができるのが、伊豆半島の面白い点です。

 

伊豆半島の他の陸産貝類

最初にヤマナメクジです。ヤマナメクジは色々な大きさがいて、環境省生物多様性センターの動物分布図で見てみると、北は北海道南部、南は沖縄まで分布しています。
陸産貝類はあまり移動しないにも関わらず色々なところで同一種が分布しているのなぜなのか。そもそも本当にこれは同一種なのか。大きさだけでなく、軟体部の色も様々で多様性に富んでいます。
系統樹を見るとナメクジは一種ではない、複数の種がいることがわかります。それぞれどこに分布しているのかを見ると広域に分布している種ももちろんいました。広域に分布している種はヤマナメクジではなく、ナメクジといういわゆる普通の民家の周りとかにいるようなナメクジです。ヤマナメクジの分布を見ると、北日本、西日本、それと伊豆半島を含めた南部フォッサマグナのあたりに広く分布している系統でした。つまり、このナメクジ一つとっても、これは伊豆半島だけではないですけれども、各地域でよく見られるものの、その地域にしかいない「ご当地」 ヤマナメクジだったということがわかりました。
これはまだ記載はされていない、いわゆる「隠蔽種」と呼ばれる種と考えられていて、将来的に各地域で別のナメクジになるのだろうと考えられています。
もう一つナメクジの面白い点は、様々な色のものがいることから、軟体部の色に進化が生じやすい可能性があるということです。

シモダマイマイを除いて伊豆半島を代表する陸産貝類というと、名前は伊豆半島らしくないですが「メルレンドルフマイマイ」です。基本的に夜中に山に入っていかないと出てこない種類ですけれどもかなり大きな貝です。

メルレンドルフマイマイはミノブマイマイという山梨の身延で基準となる標本が見つかったものと近い貝です。メルレンドルフマイマイは非常に珍しい貝で、絶滅危惧Ⅰ類になっており、そうそう簡単には見られません。どういう場所にいて、どういう生態をしているのかというのが、まだわかっていないということも多いので、今後明らかにすることで、メルレンドルフマイマイは種なのですが、亜種であるミノブマイマイ伊豆半島で分化した原因を調べる最適な種になるかもしれません。

 

伊豆半島で不思議な分布をする陸産貝類

ヒメギセルは1センチからちょっと大きいくらいのキセルガイです。基本的に北方にいる貝で、その南端となるのが伊豆半島天城山のエリアです。どうやってこの貝が伊豆半島に進出することができたのかを調べる上で非常に有用な貝ですが、そこまでの研究はまだないです。

ヤママメタニシという蓋のある貝がいるのですが、これは北陸に分布しているにも関わらず、なぜか伊豆半島南アルプス、富士山周辺にも分布しているということがわかっています。これが、いつ、どのようにこの伊豆半島へ来て、生き残っているのかということを調べることが、伊豆半島の陸産貝類の不思議というものを調べる上で大きなキーワードになってくると思います。
ただこれはとても少ない種類なので、これをもし見つけたら本当にすごいです。

ここ最近でも新しく陸貝が見つかるケースがあります。
クリイロキセルガイモドキというキセルガイモドキという種類の仲間です。クリイロキセルガイモドキはキセルガイモドキの仲間です。
モドキと付いているのはキセルガイモドキが右巻きの貝だからです。口を下にしたとき右側に口があれば右巻きで、左側にあれば左巻きです。日本のキセルガイは全部左巻きです。クリイロキセルガイモドキとキセルガイモドキは何が違うかというと表面の色が名前の通り栗色で、巻いている下側が綺麗な黄色になっていることです。
去年、驚くことにこのクリイロキセルガイモドキが伊豆半島から初めて見つかりました。何が驚きだったのかというと、本種の分布が北海道から東北、日本海までなのですが、伊豆半島の見つかった地点がこれらからとても離れていました。基本的にこの種類は日本海側にいるのに、太平洋側で見つかったので、どこから来て、どのくらいいるのかというのはまだ何もわからないです。
通常クリイロキセルガイモドキはどういう場所に分布しているのかというと、ブナ林に分布をしています。天城山はブナ林があるのでそのブナ林との関係や、ブナ林以外にも分布するのかということが今後わかってくると思います。また、どこの場所と遺伝的に近くて、どうやってこの伊豆半島に彼らはたどり着いたのかというものも大きな疑問となっています。
このクリイロキセルガイモドキが見つかったのは理学部生物科学科の実習中です。本当に未知なことは身の回りにあります。

私たちの周りでも未知なことが見つかる可能性はありますし、全然知られていない生態や進化というものも発見できる可能性はたくさんあります。伊豆半島はとにかくカタツムリが面白い、こんなに魅力的な地点はないということ、そこだけは確かです。しかし、魅力を語るにはまだまだわかってないことも多いです。
もし皆さんが見たことないものがいたぞということがあったらぜひお声がけいただきたい。身近なカタツムリに少し気を配ってみてもらい、その魅力に気づいていただければ嬉しいです。

講座参加者の方が活けてくださった「ジオいけばな」

自身のコレクションをお持ちなった参加者の方も!


質疑応答より

Q:(伊東市にお住いの方)ミスジマイマイ前の数が60年前に比べ減ったと感じています。生息場所が変わったのか、実際に個体数が減ったのかどちらでしょう。またミスジマイマイは何を食べているか教えてください。

A:伊東市で具体的にそういう研究はないですけれども、他のカタツムリの事例から考えますと、全体的に陸産貝類というものの個体数は減少していると考えられています。なので、伊東市でも減少している可能性はありえます。また植生の遷移があってそれによって生息できなくなるということもあり、より生息に適した方が周りにあればそちらに移動するということも考えられます。いずれの可能性もまだ捨てきれないと思います。
ただ、60年前と比較して都市化し、生息適地は減っていると考えられますので少なからず減少をしている可能性は考えられます。
何を食べているかに関しては、ミスジマイマイで具体的な研究は残念ながらないです。
ただ、陸産貝類全般で、コケや藻類、落ち葉を食べていると考えられています。飼育しているミスジマイマイは落ち葉やコケを食べているので、同じようなものを野外でも食べていると考えられます。

Q:西海岸が住みにくい環境とのことですが、ジオで考えると風の強さがあって、湿気がないといったことが考えられるのかと思いました。
小学校でカタツムリを飼っていた時に、葉っぱばっかりやっていると栄養失調になるのか、クレヨンで描いた絵をなめていたので、脂肪とか鉱物性のものを食べるのかなと考えました。
キセルガイモドキの貝殻が子供のころからそこら中に落ちている覚えがあるんですけれども、貝殻はずっと残るものなんでしょうか?なのでたまり続けて目にする機会が多くなるのでしょうか?

A:西海岸の話はものすごく良い視点です。カタツムリはどういう場所に住みづらいかというと水分が関係します。西海岸は湿気のなさが効いていると考えられます。
エサについては、飼育の時には動物性のエサも与えています。卵の殻を与える際も極力内側を洗わないで動物性を残してあげたり、メダカの餌をあげたり、動物質で成長が促進されるので、動物性のものを与えることは重要だということがわかっています。
どのくらい貝が残っているかに関しては、まだ調査している途中なのですが、非常に面白いことがあって、伊豆半島の南部で明らかに古そうな殻を拾って、年代を推定してみましたところ、江戸時代のものでした。基本的には火山性の土壌だとカルシウムが溶けてしまいやすくてあまり残らないというのは言われているのですが、ある程度環境が整い、土の中であったりして、雨風にさらされない場所であれば、300年くらいは残ることもありうると思います。

Q:カタツムリの寿命は?夜行性なのか?

A:カタツムリの寿命については、種類によって違うということがまず一つです。例えば一年性という、春先に生まれて、秋頃に大人になり、交尾をして卵を産んで、卵か子どもの状態で越冬するものと、何年もかけて大人になるもの、例えばシモダマイマイミスジマイマイは2.5年かかります。そこから長いものだと2年から3年は生きるということがデータからわかっています。そのため、長いと5年くらいで短ければ1年です。一方でキセルガイはもっと長いということが飼育下で確かめられていて、20年とか30年は生きるということがわかっています。ただ野外で実際どれくらい生きているのかに関しては、まだわからないところが多いです。
夜行性かどうかも種類によります。シモダマイマイミスジマイマイは雨さえ降れば昼でも夜でも出てきます。一方でヒダリマキマイマイは、伊豆半島は昼でも雨降ればある程度出てきますが、日本海側の山の奥ですと昼間どんなに雨が降っても出てこず、真っ暗にならないと出てこないという種類もいます。メルレンドルフマイマイもほぼ同じような生態をしていると考えられています。なので、夜行性の種類もいれば、昼も夜も関係なく雨という湿度のファクターが大切な種類もいると考えられます。

Q:シモダマイマイの分布域にクノウマイマイの分布域が食い込んでるのはなぜなのでしょうか?

A:何でこうなっているかは全くわからないです。過去の生物の分布や過去の地史というものが、彼らの当時の分布に影響して、それを今も引きずって、その現状を、私たちは今見ているだけにすぎないので、過去の何かしらのイベントというものがこの分布に影響しているのだと思っています。

Q:南伊豆にシモダマイマイが南東から来たという話がありましたが、南伊豆エリアに他のマイマイが入ったとき、生存し続けることができるのでしょうか?

A:シモダマイマイがどこから来たのかに関して、あくまで現状の証拠から考えられる一つの仮説です。彼らは伊豆半島が島であった時代にその島で種分化してシモダマイマイなって、島が今の半島になったときに、本土側にシモダマイマイが戻ってきたのではないかという仮説です。ただ、火山性の地質ということもあって、化石がほぼ出ないので、それを実証するのは極めて難しいと考えられています。
シモダマイマイと他の種が共存するかどうかに関しては、分布の境で共存している場所はあります。現状、私が追っている間では、彼らの交尾は確認できていません。ただ、長い年月をかけると見られるのかもしれないですし、共存している場所がいつから共存しているのかというのが、まだわからないので今後明らかにしていくべき課題であると思います。

Q:潮流によって分布が動いたという話がありましたが、カタツムリは海に入っても大丈夫なのでしょうか?

A:それに関してはダーウィンの時代からいろいろ研究がされてきています。塩につけてどのくらい生き残るのかといった実験もおこなわれています。彼らは乾燥すると表面に膜を張り、その膜が塩水のガードになり、2週間程度であったら多少は生き残るということが実験的には示されています。
潮流に乗ってきたと考えられているのは、黒潮の流路で同種のカタツムリがいるからということだけで、実際は潮に流されているところ目撃した事例は一つもないですし、おそらく不可能です。数百万年のうちに、例えば大氾濫で洪水などが起きて海に出て、それが流されたみたいなことがたった一度でも起きさえすれば、島に流れ着く可能性があるので、私たちの短い人生の中で追うのはかなり難しいです。あくまで仮説として考えられているに過ぎないです。

Q:カタツムリが川をテレポーテーションで越えるという話を子供の頃雑誌で読んだ記憶があります。作り話だと思いますが、何かカタツムリの能力に基づいた作り話なのでしょうか?

A:川の上流から流されて下流に行くことで対岸に渡る可能性は否定できないですが、これまでの分布のパターンからすると川を隔てて陸貝の種類がわかれていることがあるので、大きな川だとそれは難しいと思います。
あくまで推測になりますが、跳ねるカタツムリはいるので、それが飛ぶと表現されているのかもしれないです。
鳥に付着して貝類が分布を広げるということは知られていますし、淡水の貝やナメクジで鳥にくっついているのが実際に目撃されています。それを飛ぶというのであれば、自分で飛ぶわけではないですが、飛ぶということはできるかと思います。
※アンケートで「テレポーテーションについてはナメクジで、小学校の時に盛んに言われていた。」という感想がありました。

今年度も素敵な内山先生作の看板

講座終了後も高校生をはじめ、多くの方が伊藤先生に質問をしており、みなさんすっかり「カタツムリ沼」にハマってしまったようです。

講座後のアンケートでは、伊藤先生の「身近なカタツムリに少し気を配ってみてもらい、その魅力にきづいていただければ。」という言葉を受けてか、「家の周囲でカタツムリを探したい。」「今後はじっくり観察したい。」という感想が多くあり、新しいカタツムリが今後伊豆半島で見つかるきっかけになるのではないかと思いました。
伊藤先生ありがとうございました。