静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20230928 令和5年度第3回公開講座「デジタル社会をふまえた高齢者の居場所づくり」

須藤智先生(右)ありがとうございました。

今年度第3回目となる9/28の公開講座のタイトルは「デジタル社会をふまえた高齢者の居場所づくり」。この公開講座もオンラインでの配信をおこなっており、ちょうどこの講座の開催の前にも参加者の方から
「色々な講座を家でパソコンで見れるのは嬉しいけれども、シニア世代にはZoomの使い方が難しい。」
ということで、具体的なZoomの使用方法の問い合わせがありました。
小学生が学校でタブレットを使って授業をしている一方で、スマホの普及率が高くなっているにもかかわらずなかなか使いこなすことが難しいシニア世代。デジタルテクノロジーをどのように高齢者の生活に取り入れ、アフターコロナ時代の居場所を作っていくかということについて、今回の公開講座でお話をいただきました。

講師紹介

静岡大学グローバル共創科学領域准教授 須藤智先生
専門は高齢者の認知機能といった「認知心理学」と、認知心理学の観点から見たスマホやロボットなどの新しい道具の使いやすさのメカニズムといった「認知工学」、今回主にお話をいただいた「高齢者の生活支援研究」
先日、筑波大学原田悦子教授との共同プロジェクト「コミュニティ活動を介した科学技術と人工物利用の理解増進」の業績で令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞されました。

高齢化の現状と居場所づくりの必要性

人口の1/3が65歳以上高齢者であるという現状。高齢期になると、認知機能の低下といった心身の変化ほかに、退職による社会的役割の変化、家族の喪失といった人間関係の変化という大きな環境の変化が起きる。その中で、サクセスフル・エイジング「幸福な老い」という考えがあり、隠居をするような離脱理論、ボランティア活動や習い事を始める活動理論といった理論があるが、若い世代だけでは社会を維持できない、高齢期になって新しい役割を見つけることができるのか、という問題がある。そうなると、若い時期からの人間関係や活動を持続し、自分というものを維持していく継続理論が重要となってくるが、そもそも地域のコミュニティに若い人が参加していないという現状がある。そのためにも若い時から働きながらも地域の中での役割を担えるような社会になることが大事ということで、自分は何者であるかということをしっかりと維持し続けることができる、多世代が参加できる場をつくる必要があるということでした。
実際に高齢者の方に社会活動(ボランティアや町内会の行事など)に参加しているかをアンケートを取ると参加経験なしが50%。特に70歳台以降の男性の非参加率が目立つ。参加できる場はあっても参加しない、孤立をしてしまうのはなぜか?高齢者のニーズにあった「居場所」づくりが必要であると考え、家庭でもない職場でもない居心地のよい場所である「サードプレイス」の事例を紹介いただきました。

・地域の茶の間(新潟市)
地域の集会所で多世代が交流。高齢者自身もスタッフとして活動に参加をし、みんなで場をつくり、得意なことをいかすことで社会的な役割を得ている。

・くれば(静岡市
高齢者コミュニティ「静岡団塊創業塾」が運営。オンラインで全県からの参加が可能。スマホの学習会といった活動の企画を参加者である高齢者自身がおこない、やりたい人が参加をすることで、ニーズにあった活動をすることができている。

まとめとして、社会的な役割を生み出す居場所を考える際に、新しいことを勉強したい、生きがいにつながる活動をしたい、地域社会に貢献したいといった要素が必要であるということでした。

狩野ベースのこの場所も多世代交流の場になるのでは?と提案をいただきました。

アフターコロナ時代の高齢者の居場所づくり

コロナ禍で直接的な交流が抑制された一方で、コロナのポジティブな評価として、デジタルを利用した居場所づくりができないかという考えが生まれた。インターネットの利用は劇的に生活を変え、テレビ電話などで距離的、時間的な制約を超えて話すことができるようになり、特にコロナ禍での対人交流を増やした。通販での買い物、オンラインバンクといった生活インフラの向上、新聞やテレビ以外の情報にアクセスできることもデジタルのメリット。こうしたデジタルのメリットを活用すれば、例えば全国の同窓生とオンラインでつながれるような、時間や距離の制約を受けず、個人のニーズにあった社会的活動を創出することができるようになるのではないか?ということで事例を紹介いただきました。

・「川柳の会」のデジタル化
既出の「くれば」さんがコロナ禍でリアル居場の閉室を決定後、デジタルに強い人がzoomでの活動を考え始め、zoomの使い方を学びながら,zoomで何ができそうかを話し合った。いくつかできそうなことから、川柳の会が固定化。川柳をメールで収集していたが、スタッフメンバーの負担が大きくなったこと、先生に事前にチェックをしてほしい、記録を残していきたいという要望から川柳投稿システムを提案し、構築、改修をおこなって利用。参加の気軽さと夜などの時間を効率的に使えるというメリットがあり、リアルの会ではここまでできないだろうという感想がある。

・シニアのスマホ講習会
デジタルの居場所をつくるためには、まずスマホタブレットの操作方法を学ぶ必要がでてくる。65歳以上の高齢者のスマホ所有率は74.2%。自治体が開催するスマホ教室が拡大しているが、現在の高齢者層は学校で「情報」を学んでおらず、壊れてしまうのではという「怖さ」やできないことへの抵抗感、操作の複雑さ、価格の高さをスマホに感じている。
こうした障壁を踏まえて講習会を研究として実施。グループでスマホを使って写真の撮影会を実施しポートフォリオを作成するという講習会をおこなったチームと、個別にわからないところに対して質問してもらい解決するチームだと、グループでの講習会をおこなった方のチームのほうが、スマホの機能をより多く使うといった研究結果だった。講習会を実践的な内容にすると効果があり、「楽しんでやってみる」講習会の方が効果があることが分かった。
使ってみたいという動機づけが大事で、目的を持って使えるようにすることが重要。社会的な交流を促進していくには、自分たちで教え合うスマホ講習会からスタートし、そこからやりたいことを見つけていくのがよいのではとのことでした。
また、タブレットを初めて使う高齢者の方に集まってもらい、高齢者のみでタブレットについて情報交換する場を設ける講座を実施したが、具体的な操作を学習する場になりにくいことが分かった。操作を教えるリーダーが必要で、そうした問題解決ができる人材の養成が必要。

三島市の「タブレットキャラバン隊」
スマホタブレットの操作方法を教えるシニアで結成されたサポートチーム。その中でシニア向けの健康チェックアプリの使い方を教えている。

まとめとして

高齢者の社会的活動はサクセスフルエイジングにつながる。活動をおこなう仲間を集め、運営していくためにもデジタルを利用していくと効率的である。デジタルを上手く活用することで、ニーズに応えられる活動が生まれる可能性がある。そのためにも使いやすい情報機器が必要で、操作方法を学ぶも必要。高齢者が教えてもらうだけではなく、教える側にもなることで、さらに活躍の場を広げることができる。

質疑応答より

・デジタルのバーチャルな環境に参加することで、外に出る機会が少なくなってしまうのではないか?特に伊豆は外に自然があるので、伊豆に適したデジタルの利用方法は?
→例えば静岡市の集まりに伊豆から参加することができる。新たな人間関係が広がるといった使い方。

スマホを使えない、社会的活動に参加しない高齢者、それを望まない高齢者は無理に参加させることはないという考えですか?
→交流したいのにできない人には参加できるような場を作っていくことは大事。無理に参加することはないが、孤立はよくない。孤独と孤立は違う。今は家族がいても一人になったときを想定したほうがよい。例えば、男の人が一人になると大変なので、お料理教室は人気。現実的なニーズを見つけると参加しやすくなるかもしれない。

・地域の交流の場をつくってもなかなか人が持続して集まらない
→シニアと子どもの交流には大きなメリットがある。「ものを食べる」ことは重要。飲食の企画とかをしてみては?

・シニアでなくてもPCやスマホの操作に苦手意識があるが、コロナ禍があり、zoomは使えるようになった。
→リーダーになる人はすごいPCが得意、とかではなくてよい。分からないことをどう調べたらよいか、一緒に理解できることが大事。地域の中学生や高校生が高齢者に教えてあげられるような場がよいと思う。

アンケートより(抜粋)

・ふれあう関係作りは、とても必要なことだと思いますが、今回のお話のように時間・空間を超えたコミュニティーづくり、これからの時代必須だと思います。

・デジタルに弱い高齢者をデジタルで居場所を作るのは難しい。

・地域のデイサービスは、参加者やボランティアの減少が問題になっています。楽しい居場所を続ける為、スマホの学習会できれば世界が広がりそうです。

・伊豆の地域特性を考えると、ハイキング、畑作業、食事会など、物理世界とバーチャル世界を結合した利用事例が多く提案されて実証されると楽しいのではないかと思いました。

・公共交通機関も廃止になり、車が無ければどこにも行けない。という未来が見えている。それに備えて今のうちから、高齢者にスマホの操作など、デジタルテクノロジーを学習させておく必要がある。

・今後必要なのは利用する理由、メリットをニーズに合わせた提案、企画をしつつ、環境整備をする事で、伊豆市でも活用出来ると考えています。そしてその支援員はもちろん高齢者の中から養成もできますが、より柔軟かつリベラルな若年層を活用することで、世代間交流にもなると考えております。

 

次回、11月7日は静岡大学理学部の徳岡徹先生に「天城山の植物と自然環境」というテーマで講義をしていただきます。