静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20231107 令和5年度第4回公開講座「天城山の植物と自然環境」

徳岡先生(左)ありがとうございました。内山先生作の看板は、内容に合わせてブナとヒメシャラが描かれています。

今年度第4回目となる11/7の公開講座、「天城山の植物と自然環境」というタイトルで、静岡大学理学部生物科学科の徳岡徹先生に講義をしていただきました。

講師紹介

東部サテライトから車で南へ15分ほど。浄蓮の滝近くに、静岡大学の理学部が管理する「天城フィールドセミナーハウス」という野外実習やセミナー合宿をするための施設があります。ここを拠点に植物の採取や研究、学生実習をおこなっているのが、今回講師を務めていただく、徳岡先生です。先生の専門は植物系統分類学。天城フィールドセミナーハウスは鉢窪山の麓にあり、足を延ばせば八丁池にも行くことができる植物の勉強をするのにはいい場所であるとのこと。伊豆市湯ヶ島地区で地域の自然保全活動などをおこなう「はちくぼ会」さんとの活動もしており、今年度からは学生と一緒にお米を作っているそうです。

天城山周辺の自然

日本の樹林は、針葉樹林・夏緑樹林・照葉樹林の大きく3つに分類され、伊豆では標高900mが境目となり、低地は照葉樹林、標高900m以上では夏緑樹林となっている。ブナ林とも言われる夏緑樹林は、ブナとヒメシャラが混じるのが天城の特徴。シカの食害、耕作放棄地の増加といった問題が起きている。

天城山で見られる植物

低地に分類している照葉樹林の優占種(一番数の多い種類)はスダジイ。そのほか、アカガシ、タブノキクスノキ、ヤブニッケイ、アオキ、クロモジなど。葉の表面がテカテカしていることが照葉樹林の特徴。ヤブニッケイは葉をちぎるとコーラの香りがするそう。シカの食害がひどく、シカの食べない植物、例えばヤマトリカブトなどが残っている。照葉樹林は葉が厚いことから、林床は暗くなり、湿り、虫が多くなる。
標高900m以上は夏緑樹林になる。夏緑樹林とは落葉広葉樹林のこと。天城山での優占種はブナやヒメシャラ、カエデなど。葉が薄いので日光を透過するため、照葉樹林に比べて林床は明るい。太平洋側でこんなに大きい範囲のブナ林が広がっている場所は珍しく貴重である。ブナは大変有名だが、樹高が高いことから葉を見たことがないという人も多い。ブナにはドングリの帽子やクリのいがにあたる「殻斗(カクト)」があり、だいたい2、3個の実が入っている。八丁池の周りのブナ林はとてもきれいで貴重。
天城山のブナ林にはヒメシャラが増えている。ヒメシャラは樹皮が明るい褐色でツルツルしているので見つけやすい。
マメザクラは、富士箱根伊豆国立公園に分布が限られている、この地域固有の貴重な桜。徳川氏の家紋のモチーフとなったフタバアオイ天城山で見ることができ、万三郎岳付近では、アマギシャクナゲを見ることができる。

ブナの殻斗と果実(ふじのくに地球環境史ミュージアム所蔵)

ブナ林のいま

太平洋側のブナ林は衰退するということは、研究者の中では定説。天城山のブナ林が衰退することも避けられない。ブナは元々寒い地方に生息しているもので、気温が年々上がる中、ブナにとっては生息しにくい状況になっている。また、シカの食害がひどい。若い芽はすぐに食べられてしまい、育たたない。
天城山はブナはあっても林床に草がなく、小さな木もないので、今高木のブナの寿命がきたら、次に育つ木がない。下層植生が喪失している状況。一方で、日本海側のブナ林、例えば秋田のブナ林は大小様々なブナが生えている。
「自然の力で自然が元通りに回復する」というのは誤解で、草地のままになることがある。例えば、和歌山県三重県の県境付近にある大台ヶ原は、開発や伊勢湾台風の被害を受け森林が倒壊、そのあとササの勢力が大きくなり、森林には戻っていない。
天城山ではブナの衰退が進む一方、ヒメシャラが拡大している。ブナの大木が倒れた後、できたスペースにはヒメシャラが育っている。ヒメシャラの研究をしているが、天城山ほどヒメシャラの多い場所はない。ヒメシャラにも種類があり、ヒメシャラとヒコサンヒメシャラの分布などについて研究を進めている。2つは見分けにくいが、ヒコサンヒメシャラは幹に横方向の線が入り、花がヒメシャラよりも大きい。似ているがDNAは違いがあり、ヒコサンヒメシャラは標高の低いところにはない。標高が高くなると混在するが交雑しなく、競争もない。なぜ交雑しないのかを研究中。

耕作放棄地(人工林の放置)の問題

間伐をしていないスギやヒノキの植林地は密度がつまり、林内が暗くなる。ヒョロヒョロに育ち、風が吹くと倒木の恐れが出てくる。森林にこういった問題があることを認識しておいてほしい。

先生と一緒に山歩きをしたい!という声が多かったです。

質疑応答より

ブナは種から育てるのか?実生はあるのか?
→探せば小さなものがあるが、シカに食べられてしまう。シカの食害を防ぐことが大切。

ヒメシャラもブナと同じような状況になってしまわないのか?
→ヒメシャラの樹皮も食べられているが、ブナよりも若い木が多いのでその分をカバーできる。

シカが嫌う植物の成分はあるのか?
→シカも食べ物に困っているのか、有毒なものでも食べる傾向がある。バイケイソウという有毒な植物があるが、それも最近食べられている。臭いがつよい、ミカン科やシソ科のものは食べれらずに残っていることが多い。

アンケートより

ブナ林の衰退を止める方法はないのか?
先生と実際に天城の山を歩きたい。
という感想が多くありました。

次回はちょっと間が開きますが、2024年2月6日、「連携・協働がひらく地域の可能性~伊豆半島賀茂地域での実践事例から」というタイトルで静岡大学地域創造教育センター教授の阿部耕也先生に講義をしていただきます。