静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20240309 伊豆半島探究学習サミット 2/4「開会式・会場1発表編」

修善寺まちあるきを終え、お昼ご飯を挟み、修禅寺の檀信徒会館にて「探究学習サミット」発表会をスタート。

開会式として、静岡大学未来社会デザイン機構の塩尻信義機構長からは「自分の学校以外の人たちと交流・つながりを持つことが、地域課題や社会を考える上でとても大事。つながりを通して成長をしていくことができる。」という挨拶を、修禅寺護持会長 原京様からは「この檀信徒会館に若い人が集まることが嬉しい。午前のまちあるきも、若い人がまちを歩くことで温泉場が非常に明るくなった。温泉場を盛り上げるアイデアを出していただきたい。」という挨拶をいただきました。

修禅寺護持会長 原様より開会の挨拶

会場は2つに分かれており、発表校とタイトルは以下の通りです。

会場1
1 静岡県立下田高等学校南伊豆分校南伊豆分校から始まるスマート農業~植物工場で賢い経営を目指す~
2 静岡県立下田高等学校野良猫を減らすには? 
3 静岡県立小山高等学校高校文系・理系選択における男女比に関する一考察
4 静岡県立伊豆総合高等学校伊豆の宝!!知られざる城跡
5 静岡県沼津商業高等学校箱根西麓三島野菜をより身近に
6 伊豆市立中伊豆中学校買い物弱者のために
会場2
1 静岡県立松崎高等学校空き店舗を活用した交流拠点づくり
2 沼津工業高等専門学校カップラーメンで発想法TRIZを学び地域を笑顔に!
3 静岡県沼津商業高等学校観光コミュニケーションコース実践報告
4 静岡県立下田高等学校私が住んでいる下田市みたいな過疎地域に人を集めるには何をしたらいいのか?
5 静岡大学情報学部持続可能な地域発展のために 観光を移住につなげるロードマップ

 

会場1の発表について、概要と質疑応答からの抜粋をお伝えします。ファシリテータを務めるのは、未来社会デザイン機構教授・副機構長の丹沢哲郎先生です。

高校では珍しく、授業で植物工場を運用しています。

静岡県立下田高等学校南伊豆分校
「南伊豆分校から始まるスマート農業~植物工場で賢い経営を目指す~」

【発表概要】
静岡県賀茂郡南伊豆町に位置する下田高等学校南伊豆分校は、伊豆賀茂地区唯一の農業高校として、農業を通した実践的な教育をおこなっている。令和4年度に高校としては珍しい植物工場を導入。ロボットやICTを活用したスマート農業を実践している。植物工場を通した地域とのつながりとして、地域の社会人を対象とした農業実践講座やイベント販売などをおこない、生産された野菜は、地域の農産物直売所や飲食店で扱われているだけでなく、複数のホテルからの依頼もいただくようになった。
その中で、販売額と経費のバランス、施設の老朽化・維持管理、生徒数が少ないことによる人員不足といった多くの課題に直面。分校の植物工場が一つの経営モデルとして成立するよう、課題解決に向けて、地域イベントへの積極的な参加、社会人との交流、ライブカメラによる情報発信といったことをおこない、PDCAサイクルで回していくことで実践していきたい。
特に地域の大人と関わりから学ぶことは多く、今後も地域とのつながりを深めていきたい。

南伊豆分校さんの植物工場、以前見学させていただきました。

【質疑応答より】
高校で地域に出て活動していることが素晴らしい。地域の大人だけでなく、小学生に対しても農業という仕事に対して、植物工場という新しい農業を知ってもらうことで興味を持ってほしい。(県職員)

 

静岡県立下田高等学校
「野良猫を減らすには?」

【発表概要】
最近2匹の野良猫を保護したことから、命を落としてしまう野良猫を減らしたいと思いこの研究に取り組んだ。野良猫は餌やりによる住民間のトラブルの原因となることもある。市への相談件数も多く、野良猫を減らすことは、人の生活にも大きな影響があると考えた。
地域の人に聞いたところ、昔は野良犬がいたのに、最近は見ないので、同じ方法で野良猫も減らせると考えたが、野良犬は狂犬病の問題から殺処分されていたこと、捨て猫を減らせばとも考えたが、捨て猫を見たことがある人がほとんどいなかったので、こうした方法は野良猫減少にはつながらないと思った。
猫は繁殖力が高いことが問題であるので、その地域にあった方法により野良猫を管理することで一代かぎりの命を全うさせる「地域猫」を増やすことで野良猫を減らすことができるという仮説を立てた。そこで自分でもできることとして、市や県などがおこなうTNR活動(Trap(猫を捕まえ)、Neuter(不妊手術をし)、Return(元の場所に返す))を広め、協力していくことが大事だと思った。そのためには、地域の関わりが必要なので、そこをどうしていくかを考えていきたいと思った。

自身が野良猫を保護したことからこの研究を始めたとのこと

【質疑応答より】
実際に野良猫がいるが、自分に何ができるのか?(高校生)
→地域の周りの人に猫が集まっている現状を理解し、地域で問題意識を持つことが大事。

野良猫の殺処分が実際におこなわれている現状がある。(県職員)
→殺処分0を目指し、地域猫を増やすことで最終的には野良猫の数がすごく少ない状態を目指していきたい。

静岡大学にもみんなに可愛がられている野良猫がいる。地域猫の典型。どんな課題も「地域」で取り組むことが重要となる。(大学教員)

 

静岡県立小山高校
「高校文系・理系選択における男女比に関する一考察」

【発表概要】
男性は外で仕事をし、女性は家で家事や育児をするといった社会におけるジェンダーバイアスの構築について、高校生にとって最も身近ともいえる「女子は文系、男子は理系」というジェンダーバイアスに焦点を当てて調査をおこなった。実際に自校の生徒に調査をしたところ、文系は女子、理系は男子の割合が多かったが、これは先天的なものではなく、社会の影響を受けた後天的なものと考え、幼少期にどんな遊びをしていたかということと、保護者である両親のジェンダーバイアスについてを生徒に調査した。
幼少期に、ブロック・プラモデルといった理系的な要素を含む遊びと、おままごとといったコミュニケーション力を育む人文的な遊びのどちらをしていたかでは、男子は理系的要素、女子は文系的要素の遊びが多く、文理選択に影響していると考えられる。幼少期に触れる遊びは「女の子だから人形を」といった性別に基づいた両親の考えから影響を受けると考えたので、両親の文理選択について調査してところ、母親が文系、父親が理系の割合が、現在の選択よりも大きくなった。結果として、幼少期の遊びによる男女差が生まれたと考えられる。
しかし、両親の時代と比較すると、現在は文理選択の男女比率の偏りが小さくなっているということも分かり、性別にとらわれない役割選択肢が増えたと考えることができる。一方で、普段の学校生活で男女の差を感じたことがあるかという問いに対して、女子更衣室はあるが男子更衣室はないといった回答があり、教育現場における男女差をなくすための取り組みが求められる。文理選択の割合が男女で1:1ではないのは、能力の差ではなく、一番の原因は周囲のジェンダーバイアスの構築にあると考えるので、社会に根付いたジェンダーバイアスを排除することが重要。幼少期の遊びにおける選択の機会を増やすといった環境づくりを進めることで、より個人の能力を尊重できると考えている。

高校生にとって身近な「文理選択」とジェンダーについて考察

【質疑応答より】
なぜ、親の世代のジェンダーバイアスが強いと考えるのか?(高校教員)
→自分たちの世代の方が親の世代よりもジェンダーバイアスが少ないとかというと、グローバル化、他国の考え方が入ってきているので、男はこうであるべき、女はこうであるべきという考え方にとらわれる必要がなくなってきている。また、ジェンダー平等はSDGsの一つの目標にもなっており、勉強をしてきている。

幼少期の遊びを理系と文系に分類したことが興味深い。どうしてそのような分け方をしたのかと考えた時に、多分理系文系の授業自体がこういうコンテンツによりがちなのではと思った。理系と思われがちな情報プログラミングも、作文をするといったことが必要となり、文系理系というイメージを超えていくような活動を授業の中でもしていくのか大事であると思った。(大学教員)


静岡県立伊豆総合高校 
伊豆の宝!!知られざる城跡

【発表概要】
マーケティングの授業について
マーケティングの授業で、ヒット商品の分析や地元企業の方から商品販売の工夫などを聞いたり、井上靖の本家である「上の家」の来館記念スタンプ製作、伊豆箱根鉄道ハロウィン電車に飾る作品の製作などをおこなった。その授業の一環として「御城印」の製作をおこなった。

伊豆の城と御城印
御城印とはお城を訪れた記念証のこと。伊豆市には7個のお城があり、狩野城と大見城については、昨年度先輩が製作をした。今年度は柏久保城(伊豆市柏久保)と丸山城(伊豆市八木沢)の御城印を製作。各城の城主や歴史などを調べ、デザインをした。各城のデザインは2種あり、柏久保城の御城印のデザインは、北条早雲(伊勢宗瑞)の家紋「北条対い蝶」を背景にしたものと、柏久保城の近くにある紅葉の木を背景にしたもの。
丸山城は北条氏に属した富永氏の城で、戦国時代に北条水軍の中核となっていた城。丸山城の御城印のデザインは、家紋である「木瓜に二つ引き」を背景に土肥桜をデザインしたものと、地形がきれいだったので地形をデザインした。実際に3/1から販売されている。
この御城印の製作をはじめ、マーケティングの授業では、地域のデザイナーの方や静岡県古城研究会の方、地域の企業、DMOの方の協力をいただいた。この経験を自分の強みとしていかしていきたい。

高校生デザインの素敵な御城印、修善寺駅で販売中!

【質疑応答より】
伊豆市に7つもお城があることを知らなかった。もっと若い人たちにPRすべきだと思うが、何か取り組みはしているか。(高校生)
→このような会に参加したり、御城印からお城について知ってもらえるので積極的に販売していきたい。

 

静岡県沼津商業高校
箱根西麓三島野菜をより身近に

【発表概要】
沼津商業高校の1年生は総合的な学習の時間に「沼商プロジェクト」として、沼津市や清水町、三島市の魅力を調べている。私たちは、現在ブランド化されている箱根西麓三島野菜の若い世代へのPRに取り組んだ。箱根西麓三島野菜とは、箱根の西麓、標高50m以上の畑で採れる地元ブランド野菜であり、特に三島馬鈴薯は、静岡県では初めての地理的表示(GI)保護制度に登録された。三島市は箱根西麓三島野菜の認知度、消費量の拡大が地産地消、旬産旬消を推進する上で重要と考えている。箱根西麓三島野菜の認知度、消費についてクラスでアンケートをとったところ、知名度が低いことが分かった。野菜を好きになることは、箱根西麓三島野菜のPRという地域の問題解決、忙しい高校生の健康にもつながると考え、まずは三島市のJA直売所「みしまるかん」を実地調査。販売への工夫などを学んだが、みしまるかんに行かないと箱根西麓三島野菜の魅力に触れられないと思った。
そこで自分たちに何ができるかを考え、インスタグラムによる手軽な野菜レシピの発信をおこない、クラスメイトから評価をしてもらった結果、野菜本来の味を知る、という生産者の思いと「映え」が乖離していること、自分で調理をするという意識が低いことが分かった。今後、他の野菜との差別化や高校生が手軽に箱根西麓三島野菜を買うことができるシステムの模索、同世代向けのホームページを作成などができるのではないかと考えている。

手に持つブロッコリーは箱根西麓三島野菜

【質疑応答より】
高校生よりもその親世代にPRしたほうがよいのでは?
→「みしまるかん」のお客様のほとんどは主婦層。多くない(知名度が低い)層を取り込むためにも、普段野菜と触れ合わない高校生とした。

自分の地域の野菜と他の地域のものを比べた時の魅力をPRすればよいのでは?(高校教員)
→自分は野菜が好きではなかったが、生産者の声を実際に聞いたことで、食べられるようになった。(自分自身が美味しさを感じることが大切)


伊豆市立中伊豆中学校
買い物弱者のために

※小学校6年生から探究活動に参加。伊豆市内の小・中学生が、伊豆市の魅力を発信する情報マガジン「KURURA」の製作メンバー。
今回は伊豆市の事業である「伊豆市未来塾」(東部サテライト内山先生がアドバイザーとして参加)での取り組みについての発表で、伊豆市未来塾も高校生を対象としたものですが、意欲のある生徒さんで、中学生ですが参加をされていました。

【発表概要】
伊豆市、特に自分の住む中伊豆地区は、交通の便が悪く、高齢者が多い。そこで、高齢者も気軽に買い物を楽しみ、地域交流をはかることができる場所がほしいと考えた。
中学の総合の時間で、老人ホームや移動販売をおこなうローソンに調査をし、近隣の若い世代にもアンケートをとった。車を持たない若い世代や高齢者は特に徒歩圏内に買い物ができる場所を必要としていることが分かった。
そこで、プランを2つ立てた。1つは移動販売。実際に移動販売をおこなうマックスバリュに聞き取り調査をおこなったところ、住民への細やかな寄り添いなど思いは同じだと思った。自分ができることとしては、移動販売車では買えないものや他に必要な地域などのアンケートやインタビューがある。
もう1つはマルシェの開催。使用できそうな廃校が近くにある。家から出られない人はどうするのかといった課題があったので、内山先生と話し合った。マルシェは地域交流という面で、孤立している人に気づくきっかけになったり、地域の小さな商店が参加できるのではと思った。地域づくり協議会に提案をしたところ、令和6年度にやってみようということになったのでこれから始動していく。コロナ禍もあり減ってしまった地域のつながりが、マルシェの開催により再び活性化するのではないかと考えている。

マルシェ開催を計画中、プレゼンがとても上手で話に引き込まれます。

【質疑応答より】
自分の住んでいる地域も自分が思っている以上に高齢者が多い。これから自分たち世代にできることは?(中学生)
→現状を知ること。中伊豆は不便が目立つので、若い世代は早く地域から出たがる。高齢化が進む中、自分が大人になったときに、周りの手を借りながら地域課題を解決していくためにも、今のうちから知識・行動力を身に付けることが大事だと思う。

富士宮市、その地区の人が商店を始めたという事例(柚野商店)がある。子どもが買い物を学ぶ場にもなる。(県職員)

 

3/4「会場2発表・閉会式編」につづきます。