静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20240309 伊豆半島探究学習サミット 3/4「会場2発表・閉会式編」

会場2の発表について、概要と質疑応答からの抜粋をお伝えします。ファシリテータを務めるのは、静岡大学地域創造教育センター准教授の山本隆太先生です。

 

静岡県立松崎高校
空き店舗を活用した交流拠点づくり

【発表概要】
高齢化や後継者不足、人口の減少や大型店との競合など、年々増加傾向にあるシャッター街。私たちの学校がある松崎町も例外ではない。商店街というのは、町の歴史であり、町民の暮らしを支えてきた重要なもの。私たちは、静岡大学地域創造学環の学生さんと連携し、商店街にある空き店舗を実際にお借りし、地域の交流拠点として整備している。そこで使用する什器は、地域の不用品で、リヤカーで回収をした。
この一連の取り組みを動画にし、静岡銀行主催の探究プログラム「アオハルし放題」に応募し、優秀賞を受賞した。今後は、小中学生に向けて高校生が指導する勉強会や、ボードゲーム大会の開催を考えている。
課題として、高校生、大学生が中心となって活動しているので、進級や進学にともない活動が続かなくなるという持続性の問題がある。そこで、高校生を活動に加える仕組みとして、探究学習の時間に自分のアイデアを実践する場所としてこの場を提供できないかということを提案したい。他の学校ではできないような経験ができ、自分の進路に生かすことができるという好循環を生み出すことで、持続的に松崎町の発展に貢献していけるようなサイクルを作りたい。

地域での居場所づくりを実際におこなっていることが高く評価されていました。

【質疑応答より】
高校生が参加できる仕組みを考えるのはとてもよいことだと思ったが、地域の人が継続して参加できるようにするにはどうしたらよいか?今後どのようなことをやってみたいか?(大学生)
→地域の方の関わりは、今後の活動を持続させていく上で必ず必要なもの。住民の方をまきこむようなイベントを開催し、まずは参加してもいそこから協力してもらえるような循環を生み出したい。やってみたいことは、商店街にあるということもあり、各商店のおすすめ商品集めたマルシェを開催してみたい。話題性もあって集客にもつながるのではないかと思う。

修善寺で実際に居場所づくりをおこなっているが、高齢者しか集まらなく、若い人が集まらないことが課題。若い人が一生懸命で素晴らしい。持続させていくには、自分の家庭を通してこの場所を使うことを地域の人に広げていくとよいのでは。地域の人が楽しいことをやっていれば観光客も集まり、地域活性化になるのではという理想でやっているが現実は難しい。地域の老人会とかと交流会を持って地域に根差して活動をするとよいのではないかと思った。(地域住民)

※動画を使ったプレゼン、実際に地域に出て活動を実践していることが素晴らしいという意見がアンケートでも多かったです。

 

沼津工業高等専門学校
カップラーメンで発想法TRIZを学び地域を笑顔に!

【発表概要】
自分たちが所属している「知財のTKY(寺子屋)」では、静岡県の地域特性をいかし、TRIZ(トリーズ)という発想法を用い、地域課題の解決に挑む活動をしている。知財のTKYでは、大きく分けて、沼津港深海水族館と連携した深海生物の構造観察といった「環境」、自動車産業と連携したエネルギーマネジメントといった「エネルギー」、TRIZをいかした「アイデア創造」という3つの分野での活動を実施。この3つの分野を合わせ、駿河湾の深海調査や駿河湾フェリーとの教材開発などをおこなっている。沼津高専では学生全員が知財の基礎とTRIZという発想法を学ぶ。
身近な存在であるカップラーメンとそれにまつわるオノマトペを例に、TRIZの中の40の発明原理(250万件の特許から分析して得られたもの)を学び、さらにその40の発明原理の中からよく使う10個を「ABCDパリパリせんべい美味しいよ」という覚えやすいフレーズにして周知している。(A:アレンジメント、事前の準備、B:分割、C:カラー、D:ダイナミック、パ:パラメータの変更、リ:リバース、逆転、セン:センサー)
TRIZを用いて、県東部地域局と連携し、地域課題に取り組んでおり、具体的には、放置竹林の問題に取り組み、竹を使ったサバイバル体験を提供した。また、沼津市戸田の特産品である「タチバナ」を使った商品も考えた。
TRIZを子どもたちに教える活動もしており、地域の小学1,2年生を対象に、紙などの限られた材料だけで「落ちてくる卵を守る」知財創造教育をおこなった。これは力と形の技術矛盾を考えるもので、深海調査、宇宙開発、防災にもいかすことができる。「ABCDパリパリせんべい美味しいよ」をオノマトペと身近な例を出すことで、子どもたちにもイメージをしやすくなるよう工夫し指導。子どもたちは、学ぶ前と学んだ後で、アイデアの数に大きな差が出た。自分たちがアイデアを生み、実際に作り、それを検証して改善できるという一連の流れは、子供たちにとって必要な活動であるという感想をもらった。この活動を広げていきたい。

身近なカップラーメンを使って、TRIZ発想法を説明

【質疑応答より】
「落ちてくる卵を守る」は、グループワークでやったのか、個人ワークか?(高校教員)
→個人でアイデアを出し、グループワークでよい点を抽出する。達成感、会話が生まれることからもグループワーク。

自分たちが分かっていることを分からない人に教える、言葉で伝えるということはとても難しい。考えたことが成功するという体験を小学生に与えるということはすごいプロジェクト。(大学生)

※TRIZを教育に取り入れたい、参加してみたいという意見や感想を他にもいただきました。

 

静岡県沼津商業高校
観光コミュニケーションコース実践報告 

【発表概要】
令和5年度に沼津商業高校に新設されたばかりの「観光コミュニケーションコース」。急激な人口減少による地域産業衰退の深刻化や訪日外国人観光客への対応、若い世代への郷土愛の育成といったことを背景に新設されたコースである。定住人口の増加、企業誘致、住民の幸福度の向上といった地域活性化の第一歩として観光に取り組む。観光は、お土産などの購入・地域との交流・移住のきっかけとなり、間接的な経済波及効果をもたらす。
観光コースは、地域の魅力を発見し郷土愛を育むこと、観光産業を盛り上げ地方創生の実現を目指すこと、観光ボランティアガイド積極的におこなうことを目標とした授業をおこなっている。具体的には、ビジネスコミュニケーションと課題研究という授業があり、ビジネスコミュニケーションでは、外国の方へのボランティアガイドをおこなったり、インバウンドに向けた英語学習やマナーを勉強している。課題研究では、清水町町制60周年記念の産業祭で、企業の方と協力し、出店する記念メニューを開発。地元企業とコラボした商品開発で地域貢献を目指している。また、フィールドワークや外部講師を招いた授業により、地域や地元の魅力を再発見した。
今後の展望としては、今年度成果のあったボランティアガイドの実施や商品開発・販売実習などを継続したい。そのためにもガイドを地元の小中学生にしたり、他の高校や大学と連携・交流していきたい。ホテルなどの接客体験、検定取得、異文化の理解といったグローバル化に向けた学習もしていきたい。

観光コミュニケーションコースは令和5年度に新設されたばかり!

【質疑応答より】
若い人に郷土愛というのは難しい、地域が好きになったという声はあるか?(高専生)
→地元のガイドさんに地域に詳しいことを褒められ、それを小中学生にも広めたらどうかという提案があった。

東部地域局は夏休みに地域の小学生とその保護者を対象にお仕事体験講座を開催している、ぜひコラボレーションしたい。小学生がその企業のいいところや地域のいいところを地域の人に伝えられるような取り組みができるとよいなと思う。(県職員)


静岡県立下田高校
私が住んでいる下田市みたいな過疎地域に人を集めるには何をしたらいいのか?

【発表概要】
自分の住む下田市に観光客だけではなく、移住したい人も集めたい。自分が将来公務員になりたいことや、「下田MIRAIプロジェクト(三菱地所などが地域でSDGsの活動を推進するプロジェクト)に参加していることからこの探究を始めた。
下田MIRAIプロジェクトでは、都心部の大人や下田を盛り上げたいという地域の大人とともに、下田の未来を考え、実際に東京の丸の内を視察した。東京で自然を重視したプロジェクトをおこなっているのを見て、下田であれば自然はたくさんあると、あらためて魅力を再発見できた。
下田の良いイメージとして、歴史的建造物や夏の海 黒船祭、魚を使った郷土料理があげられる。一方、悪いイメージとして、少子高齢化 娯楽施設が少ない、交通の便が悪いといったことがあげられる。人口減少、耕作放棄地の増加、漁獲量に占める割合がキンメが多い分、とれなくなったらという心配もある。下田市では「世界一の海づくりプロジェクト」という下田の自然を体験できるプログラムを提供している。
私たちにできることとしては、こうした市のおこなうプログラム参加したり、地域の仕事について知る機会を持ったり、発信していくことだと思う。

【質疑応答より】

魅力いっぱいの下田市。その魅力を若い力で発信してほしいです。

下田には娯楽施設がないということだが充実しているところとはどのようなイメージ?いつ頃から自分の住む町を「田舎っぽい」と感じるようになるのか。(大学教員)
→沼津は色々な施設が揃っていて便利なイメージ、中学生くらいから都会との違いを知るようになって田舎と感じるようになる。

下田は夏は賑わうが、海の活用できない冬もにぎわう仕掛けがあればと思う。逆に人がいないことがいいことととらえることもできる。観光とかも人がいないところに行きたいという人もいるし、おもてなしを求めない観光もある。良いイメージと悪いイメージを整理し、その矛盾するところを探し、矛盾を解決する発想方法で取り組んでみては?下田市についてまとめたことを過去・現在・未来という形で整理すると良いと思う。(高専生・高専教員)
1人だとしにくい発信でも、知り合いが多い友達がいたりしたら、その人にお願いするとか友達と一緒に取り組んでみてはどうか?(高専生)
高校を卒業して県外に出る人が多い地域。若い人の存在が重要ということで、若い時にどれだけその地域に関心を持てるかということは重要(大学生)
歴史について勉強することの大切さ。下田は歴史的に風待ち港で、キレイな海であることにも歴史がある。ロシアとの関係なども歴史を知ると、自分が住んでいるところが国際的にも自慢できる場所であることが分かると思う。(地域住民)

 

静岡大学情報学部情報社会学科 
持続可能な地域発展のために 観光を移住につなげるロードマップ

【発表概要】
過疎の進む松崎町をフィールドに設定し、持続可能な地域発展ということを課題として、PDCAサイクルをもとにまちづくりを考えた。地域復興について「良い町」という言葉が使われるが、良い町というものを外部の力に依存せず、地域自体が人や物を活用して発展していく「持続可能な地域発展をする町」と定義した。高齢化に伴う人手不足が深刻な地域では、地域自身が他のものに頼らず発展する持続可能な仕組みを作ることで、問題解決に繋がるのではないかと考えた。
持続可能な仕組みづくりとして、観光と移住という要素をサイクル化していくことに注目。このサイクルは、初めてその地域を訪問する人に地域に関心を持ってもらい、複数回の訪問に繋げ、その中で移住のキャンペーンやイベントをおこなうことで具体的に移住のイメージができることで、移住につながっていくというもの。その結果移住した人から、観光客から見たその地域を知ることでより質の高い観光の提案もできる。複数回訪問と移住意識の関係にはデータからも正の相関があると推測される。
複数回訪問につなげるための具体案として、どういうイベントを開催すればよいかを「松崎町+アート」というテーマで2つ考えた。
1つ目は、雲見海岸から見える風景を葉などで描こうといったイベント。自然体験に興味のある小学生を持つ家族がターゲット。ペルソナ(商品やサービスを利用している典型的なユーザー像)を設定して決めることで、確実な獲得を目指す。
2つ目は、松崎町を巡り、その風景を漆喰鏝絵(左官の技術で漆喰とコテで描く絵、この漆喰鏝絵で名を馳せた入江長八が松崎の出身)に残すというイベント。SNSを使いこなす大学生がターゲット。SNSからテレビといった大きなメディアに取り上げられる可能性がある。
観光から移住は時間がかかる行動のため、すぐに結果は出ない。その分イベントごとにPDCAサイクルをまわすことで修正に取り組んでいけると思う。

トリを飾るのは、静岡大学情報学部の大学生の発表

【質疑応答より】
自分が観光から伊豆への移住につながった。持続可能という定義が外に依存せずにということだったが、観光から移住というのは、移り気な都市の人の心を買う、外部の大きなマーケットに依存していることから矛盾している。伊豆は観光地として売れていた時代がある。外部のマーケットに左右されるところから抜け出せないというのは難しいところ。プロジェクトを続ける中で、こうした考えを持っていてほしい。(ジオパーク研究員)
→観光客自体が外部の人間であるという視点は持っていなければならないと思った。そこに気づかせてもらったことはありがたい。

移住は移住先の人口は増えるが、移住元の人口は減る。根本的な解決になっていないのでは?(大学生)
→人口の少ない地域の衰えが問題になっているので、衰え続けることがよくない、一時期でも活気を取り戻すことが大事だと考えている。

非日常という観光から、日常的に住む、ということの動きはなかなか難しい。伊豆に移住してくる人も不便でまた元の都心部に戻る人がいる。二拠点居住につながることは考えられるが、観光から移住に移るということの定義について知りたい。(地域企業)
→非日常から日常にストレートにつなぐのではなく、非日常の中で地域の人とのイベントを通して、日常を想像してほしいのが目的。

自分自身が東京と伊豆の二拠点生活をしている。コロナ禍でリモートワークができなかったら東京に戻っていたと思う。二拠点生活先の伊豆には定年退職者が多い。持続可能というと働く場所があり、町の中で産業、経済が回っていることが重要。(地域住民)
→大学でサテライトオフィスについて松崎で考えている班もある。色々なアイデアを実現していくには町自身にある程度の力が必要。町の活動に参加する人材を増やすことが重要と考えている。

大学の発表基本的には「ディフェンス」。自分たちの発表に対して、色々な人からの意見に対し、ディフェンスするもの。大学の発表を体験していただけたかと思う、という山本隆太先生からの言葉で、会場2の発表は終了しました。

美しい伊豆創造センター金刺様より閉会式の言葉

閉会式

一般社団法人 美しい伊豆創造センター ジオパーク推進部長 金刺重哉様より総評
今回参加した高校も北は小山高校、南は下田高校と、伊豆半島は広く、様々な課題に皆さんが取り組み、地域に愛着を持っていると感じた。自分事として考えることが大事で 発表の中でも自分を磨くことが地域を磨くこと、という言葉あり、本当にそうだと思った。
美しい伊豆創造センターは、伊豆半島15市町による伊⾖半島の観光・産業振興を推進する組織で、商工会、観光協会、企業、静岡大学などが連携、事業に賛同しているので、皆さんが発表した活動をネットワークをいかして続けていければと思った。

静岡大学東部サテライト内山先生より総評
中高生が課題を感じ、アクションを起こしているのを見て、大人もアクションを起こして以下なればと思った。探究学習というと難しい課題を乗り越えなければならない、というイメージがあるが、自分事として楽しむことも大事。来年も参加してほしい。

4/4「展示・交流会編」へつづく