静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20230630 「ふるさと絵屏風」の視察のために葉山町訪問

「ふるさと絵屏風」の取組みを視察するために、神奈川県葉山町を訪問しました。この取組みは滋賀県立大学の上田先生が発起人であり、かつてその地に暮らした人びとの暮らしぶりを描いたもので、昔の生活のストーリーや伝統文化などの懐かしい風景が屏風の中に散りばめられています。まさに、心のふるさとを絵で表現したものです。その取組みが、神奈川県葉山町でも行われたということを知り、伊豆市大平柿木の人達と一緒に見学に行ってきました。伊豆市から箱根峠を越えて車で約2時間半、右手に相模湾を臨みながらひたすら東へと進み、別荘地としても人気の高い風光明媚な町、葉山町の上山口という地区に到着しました。ランチは今回の会場である上山口会館のすぐ近くのお蕎麦屋さんに行きましたが、大行列のできる人気店らしく、順番待ち。かなり時間がかかりそうだったので、近くの棚田を見に行ったり、周辺を散策しました。

周辺は棚田が広がるのどかな景色

訪問先の上山口会館には、ふるさと絵屏風に携わった「葉山ふるさと(古里)絵屏風継承会」のメンバーの方や、きっかけを作った大和ハウスの方、当時の区長さんや関係者など、6,7名にお集まりいただきました。まず、目に入ったのは、畳4畳ほどある大きな絵屏風、大迫力で思わず言葉を失うほどの感動でした。

畳4畳分ほどの大迫力の絵屏風!

それから1時間程度、近くで絵屏風を見ながら絵の中にあるストーリーを解説していただいたり、描かれた風景の説明を丁寧にしていただきました(絵解き)。人の表情も非常に細かく描かれており、「この男の子は隣村から魚や虫を捕りに来た少年」、と、そこにはいたずらっ子のような表情の男の子の姿がありました。屏風には四季の村の様子が描かれ、手前は水脈をもつ山のふもとに広がる水田、川の向こう側には小川が流れる畑作中心の土地が広がり、茅が植わる山は所々はげ山になっているなど、地域の自然の様子が一目で分かります。人びとの生活に目を向けると、そこには祭りや冠婚葬祭、子どもの遊び、屋外演劇鑑賞の様子、茅葺き屋根をふく様子などが描かれています。なんと、絵の中には絵師の3名の方達や実際に実在する地域の人達も数名描かれているということでした。

この観客の中に絵師3名が描かれているそう

これだけの作品を完成させるのは当然ながら容易ではなく、最初のアンケートやヒアリング調査から完成までには3年ほどの年月がかかったそうです。その間には、昔の様子を絵にするための素材収集のために、地域の各家庭を訪問し、昔の写真や資料を収集しまとめる作業がありました。なるほど、このような緻密な準備作業があったからこそ、当時の様子をこれだけ正確に表現できたのだと納得しました。

今もあるこの湧き水も絵屏風に描かれていました。

素材集は10冊以上あるそうです

この絵屏風は何時間見ていても飽きることなく、当時の様子がまるで目の前に広がるような不思議な感覚に襲われます。ふるさと絵屏風の意義はいろいろありますが、「次世代へこれからの生き方へのメッセージを残すこと」、とおっしゃっていた岩澤さん(当時の区長)の言葉が印象的でした。この絵屏風は葉山町にあるいくつかの小学校において紹介もされ、地域学習にも活用されているようです。

地域の宝物だ!と話す当時の責任者の岩澤さん

かるたも作られ、読み札は地域の小学生が作ったそうです

多くの記憶が失われつつあるなか、これまでの生活の歴史、歩みを記録として残していくことは知恵や技の継承という点からも価値のあることだと思います。

改めて、こんな絵屏風を伊豆市柿木地区で作りたい!と決意を新たにしたのでした。

伊豆市大平柿木の仲間たち