静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20240110 滋賀県八日市町にて「ふるさと絵屏風」視察

地域の人の生活や風習が一つの絵にまとめられた「ふるさと絵屏風」

三島から新幹線を使って片道4時間。1月10日、滋賀県東近江市に「ふるさと絵屏風」の見学とその発案者である滋賀県立大学地域共生センター上田洋平先生のお話を伺いに行きました。
「ふるさと絵屏風」とは、地域文化学を専門とされている上田先生が「滋賀の暮らしを次世代につなぐ」ことに関わる中で、地域に暮らす人々の生活体験を記憶する手段として編み出した手法です。地域の生活誌を一枚の絵図として描き上げ、屏風として表装したもので、滋賀県を中心に製作されています。
描く時代は昭和20~30年ころを中心とし、
「目に浮かぶ風景」
「耳に残る音」
「鼻に甦る匂い」
「手足にしみ込んだ暑さ冷たさや手触りなどの感触」
「忘れられない味」
という五感アンケートと聞き取りを元に絵図を作成。できた絵屏風を「絵解き(絵の説明)」をすることで活用することに大きな意味があります。

ロバのパン屋?ふるさと絵屏風を前に話が尽きませんでした。

地域福祉を専門としている内山先生が、松崎プロジェクトの高齢者チームで、このふるさと絵屛風の製作に取り組み始め、昨年6月に葉山町にふるさと絵屏風の視察に行きました。

toubusatellite.hateblo.jp

その際、本格的に絵屛風制作に取り組むのであれば、上田先生にお話を聞いた方がよいとのアドバイスをもらったため、今回の視察が実現。松崎町からも絵屏風作成を一緒に進めていく高齢者施設に勤める2人の方が一緒に参加しました。

訪れたのは八日市コミュニティセンター。ここには滋賀県東近江市八日市町のふるさと絵屛風が保管されています。当日は嬉しいことに、上田先生のほか、八日市町のふるさと絵屛風を制作した八日市地区まちづくり協議会の方、甲賀市土山町山内地区でふるさと絵屛風を制作された方、現在目下ふるさと絵屛風制作中の彦根市高宮地区の方という、ふるさと絵屛風の「大先輩」のみなさんが、お忙しい中、情報交換や「絵解き」のために集まってくださいました。

最初に上田先生よりふるさと絵屛風についての説明をいただきました。地域の記憶を掘り起こし、共感のコミュニケーションが生まれ、過去の値打ちを高めることができるふるさと絵屏風。英雄が活躍する大河ドラマではなく、庶民の「絵画ドラマ」。一つ一つの場面にそれぞれの物語がある「メモリアリウム」。といった、先生の伝える言葉選びの面白さ、優しい語り口で、すぐにふるさと絵屛風の世界に引き込まれました。

一般的な絵画では下方に描かれる琵琶湖、町の持つ世界観を出すために上方に描かれています。

そして、迫力あるふるさと絵屛風とご対面!まずは、八日市ふるさと絵屏風の制作過程の説明および絵解きを「絵師」である地域の方にしていただきました。
絵を描くのが得意で、地域の「よしペン(びわ湖のヨシ(葦)を使用したペン)」サークルに入っていたという八日市の絵師さん。お1人でこの絵を描いたとのこと。

味わいのある絵を描く地域の絵師さん、絵解きにも引き込まれます。

絵を構成する一つ一つの場面の絵解きは、例えば、映画館やサーカスといった娯楽、男子と女子の昔の遊び、採れた農作物、季節の行事、銭湯や商店などについて、その説明をいただきました。技法については、山・川・道路・線路を入れることで、構図が決まることや、村ごとの世界観の方向が大事というアドバイスがあり、他の地域の絵屏風と違い、地名を入れて分かりやすくしているということでした。絵屏風を構成している一つ一つの場面を読み札を小学生が作成したカルタなどにし、地域の人が活躍するツールとして活用しています。

山中の絵屏風の絵解き、こちらの絵屏風は持ち運びしやすいタペストリーになっています。

次に甲賀市山内地区のふるさと絵屛風を見せていただきました。こちらは、小学校などでの教材として使用できるように、タペストリーという形状したものをお持ちいただきました。山内地区では6つの大字がそれぞれ絵屏風を制作、今回お持ちいただいたのは山中地区のもので、6つの地域それぞれで制作することにより、教え合いや競争意識があったとのことです。山内地区ではこの絵屏風を1冊の本にまとめ、地域の「語り部」の方が絵解きをする様子をyoutubeで配信しています。説明をしてくださった方が保健師さんということもあり、高齢者福祉の場で、例えば昔の民具とともに絵解きをし、回想法に用いているといった活用をお話してくださいました。

真ん中は葬列の様子、地域の風習や行事を知ることができます。

その他のふるさと絵屛風の活用例として、描かれている場所を巡るツアーなど、福祉や教育だけでなく、観光のツールとしても広がりがあることからますます、松崎町での制作を進めていきたい気持ちになりました。

コミュニティセンターでの集まりのあと、実際に八日市ふるさと絵屏風に描かれている場所を歩いてみようということになり、「本町商店街」を歩き「アル・プラザ八日市」へ。
アル・プラザ八日市は大きいショッピングセンターなのですが、なんとその外壁にさきほどの八日市ふるさと絵屏風が描かれており、施設内の壁にも描かれています。地元の製菓会社さんの包装紙にも採用されているようで、地域に根付いているのだなと思いました。

ショッピングセンターの外壁に描かれている絵屏風

内山先生が松崎町でのふるさと絵屛風制作を進めているということで、静岡県松崎町の説明をした際に、松崎町のことを知っている人はほぼいませんでした。松崎の観光案内のパンフレットをお見せしたところ、なまこ壁や桜葉漬け、そしてなによりも雲見からの富士山に感動してくださり、絵屛風には絶対に富士山を入れたほうがよいというアドバイスをいただきました!
まだまだ先の話になると思いますが、松崎町のふるさと絵屏風を交流のツールとして、滋賀の方にも松崎町、伊豆の良さを伝えられたらな…と、滋賀名物の「サラダパン(きざんだたくわんをマヨネーズであえたものを挟んだパン)」を食べながら思いました。

いつか、こんな素敵な絵屏風が作れたら…夢は膨らむばかりです。

まず、松崎町で協力してくださる方を集めるためにも、上田先生や八日市、山中、高宮の諸先輩方に、ぜひ松崎町にお越しいただき、絵屏風の絵解きを実際にしていただきたいと思いました。この場を借りて上田先生をはじめ、当日集まってくださった皆様に御礼を申し上げます。本当に素晴らしい時間でした。(ちなみにこの日、暖かい伊豆に住む私たちは今年度初となる雪を見てテンションが上がりました)