
2月21日の伊豆ビジネスセミナーは、デジタル庁国民向けサービスグループ参事官補佐の鈴木ミユキ氏を講師に迎え、「データから見るウェルビーイング」というタイトルで講演をしていただきました。
「健康」「幸福」などに訳されるウェルビーイングですが、身体的な健康、精神的な健康、社会的に良好な状態、これらすべてが満たされた状態をウェルビーイングと呼び、ビジネスでも取り入れるべき考え方として広まっている概念であることから、今回の開催となりました。
静岡県菊川市からコロナ禍をきっかけに、デジタル庁に出向している鈴木氏。商工観光課長時代に飲食店等の休業協力金の給付を担当し、手続きのデジタル化に課題を感じ出向を決意。同時に、働きながら、静岡大学大学院総合科学技術研究科で、行政の情報をどのように地域伝えるかといった研究もしています。
菊川市での取り組み
菊川市役所庁舎東館 「プラザ きくる」の建設担当として企画段階から、オープンまでを担当していましたが、オープン時にコロナ禍に。
JR菊川駅の主な乗降客は定期券利用者であり、まちの重要なインフラであるJR菊川駅を将来にわたり維持していくには、利用者を継続的に確保する必要があると考えたこと。また、若い世代が進学を機に名古屋や首都圏に出てしまうことから、中学高校までの間に地域に愛着を持つことでのUターンに繋がれば、という思いがあったこと。それらの思いから施設内の多目的エリアのコンセプトの策定段階では、市内の高校に協力を得て高校生を対象としたワークショップを行い、ワークショップで出た意見をもとにおしゃれなカフェの雰囲気を取り入れた。現在、勉強する高校生をはじめ、多くの地域の人が利用しています。
また、同時期にNPO法人サプライズの飯倉氏をアドバイザーとし、市内高校に加え、商工会、市役所都市計画部門、地元自治会など多様なメンバーの「にぎわい研究会」を開始し、その研究会から出たアイデアである、市内の高校で生産した農産物やその加工品を販売する「小さな収穫祭」を地域の協力を得て開催。最近では、高校生が主体となった「みんなのアソビバ&小さな収穫祭」にさらに進化しています。
ウェルビーイングの基本概念
人々のやる気、希望、社会の豊かさといった「ウェルビーイング」という新しい概念が、岸田前首相の就任所信表明の中に使われたことは記憶に新しい。
ウェルビーイングの基本概念は、WHOでは、身体的・精神的・社会的に良好な状態であること。私たち個人幸福感のみがウェルビーイングではなく、健康や社会の福祉といったことを含めてウェルビーイングであるということ。個人幸せは社会の幸せの中に内包されているという考え方です。
国際的な流れは、ブータンの国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)、国民の幸せの総量を計測して国の政策を進める取り組みが発端。
世界のGDPは右肩上がりだが、世界のウェルビーイングは右肩下がり。経済的発展だけでは幸せの向上には限度があるのではということが国際的に議論の対象となっており、20世紀はGDPが伸びると幸せも伸びていたが21世紀になってそれが相関しなくなってきました。
国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)は、毎年3月に世界幸福度報告を出しており、日本の順位は高くない。人並みで幸せ、といった日本的幸せ感欧米の獲得的な幸福感と少し異なる。国際的な指標策定の議論の中に日本的な幸福感を含められるよう働きかけていくという動きもあります。

なぜデジタル庁でウェルビーイングなのか
「デジタル田園都市国家構想」の取り組みのイメージ図を説明すると、国や地方公共団体が整備するデジタルインフラを基盤にその上に地域での暮らしを支える様々なソリューションがあります。本来、デジタルソリューションを導入することが目標なのではではなく、デジタルソリューションの活用通じ、地域の皆さんの暮らしのウェルビーイングを向上させることが目標。
教育、医療、交通、防災、エネルギーなどの様々な分野で官民一緒に社会を支えていく必要があり、様々な立場のステークホルダーが、データという共通言語を用いることで、ウェルビーイングの向上という大きな目標に向かって、地域において協力できることがないのか、ということを話すツールになります。
デジタル庁が進めている地域幸福度(Well-Being)指標は、主観指標と客観指標のカテゴリを整合させ、レーダーチャートのかたちで
上記のホームページで見れるようにしています。
Well-Being指標の構造は、MaaS(複数の公共交通や移動サービスを組み合わせて検索・予約・決済などを一括でおこなうサービス)の導入を例にした場合、取り組みにより地域に走るライドシェアの台数が増え、通勤通学に自家用車を用いない割合が増加したといった定量的な数値が客観指標として。その取組によって公共交通を使っていつでも行きたいところに行ける、といったアンケート回答から導き出されるのが主観指標。客観指標・主観指標を24カテゴリで整合させるかたちとなっています。
企業の方が自治体を訪問する際、このデータを使い話すと共通な話題がでるのではないでしょうか。まちづくりに関わる様々な人たちが利用することができるデータなので、自分のまちのレーダーチャートを見て、自分たちの強み、弱みは何かと分析するワークショップをおこない、今後の政策で重点的に取り組むのか、検討するきっかけとすることが全国でおこなわれています。
国内での幸福度指標に関する取り組みについて
岩手県は2020年から「いわて幸福白書」を発行。また、富山県は花の形で住民のウェルビーイングを表現しています。
wellbeing.pref.toyama.jp静岡県内での先行事例では、浜松市においては、地元の企業と子育ての分野に取り組むNPO法人、行政の職員などが参画する官民連携組織でワークショップを開催した実績があります。また、「はままつWell-Beingアワード」として積極的な取り組みをおこなった企業や団体等を顕彰しています。
磐田市では静岡産業大学と市が連携し、地域幸福度指標の分析・活用を進めています。
はたらく幸せということの研究成果
急速に進む人口減少によって、企業の採用は厳しくなってきており、コロナ禍もあったことから経営や人材育成を取り巻く環境は多様化してきています。
組織・個人・社会の「三方よし」になることが求められる時代。ワークエンゲージメント、どれだけ従業員が仕事に没入できているかといった、従業員の心を測るということが経営の中に入ってきています。経営者や幹部の皆さんは、従業員の満足は利益だと思うかもしれませんが、これからの時代、企業は人材から選ばれる立場になります。そうすると、従業員の価値と経営側の価値をどうすり合わせるかが非常に大きな課題になります。
「働く幸せ」について研究している慶應義塾大学前野隆司研究室の井上亮太郎氏らの研究成果では、働く人の幸せ・不幸せをもたらすそれぞれ7つの要因があることが明らかになっています。調査研究によると、年代が上がると幸せは緩やかに上昇傾向、不幸せが下がる。雇用形態別だと正社員の幸せが低く、フリーランスが高い。職位別では職位が上がるほど責任は重くなるが、幸せは上がり、不幸せは下がるという結果。
働く幸せ実感が高い人の方が、自分個人のパフォーマンスや組織パフォーマンスは上がっていると思い、不幸せ実感が高い人の方が、自分のパフォーマンスも組織のパフォーマンスも低いと思っているので、働く幸せを高めていかないと働きがいにつながらない。
働く幸せと不幸せがもたらす効果として、幸せの実感が高い人がいる企業の方が、売上高が1.4倍となるという結果がでています。仕事に夢中になるというワークエンゲージメントと、問題解決のために自身のアイデアを積極的に試すような人たちが個人パフォーマンスをあげて、組織のパフォーマンスにも影響し、売り上げが増加するといった関係です。
出張者の出張地域への愛着
同じく、井上亮太郎氏らの研究成果で出張者の出張先の訪問回数と地域への愛着の関係を調べたデータがあり、訪問回数では3回目までに愛着ができ、その地域へのコミットメントが深まるという結果があります。要因は、地域の人との懇親やイベントなどへの参加。
そのためには地域の人と出張に来た人を橋渡しをしてくれる人が必要で、そうした人がいれば、関係人口が増えるのではと思います。出張先の愛着が高い人は成長因子、他者承認因子 他者貢献因子が高いというデータもあります。出張者の出張地への愛着は来訪3回目でピークとなるので、そこまでに有効なつながりを持てるかがポイントとなるのでは、とのことでした。
質疑応答では、幸せになるとパフォーマンスが上がり売り上げが上がるのか、売り上げが上がり、パフォーマンスが上がるような環境や業務、上司がいる結果としてウェルビーングが高まるのか、そこに因果関係があるのかどうかといった質問があり、参加者の方から自治体職員や教員の方は売り上げが関係ないので、そうした職種の方の調査をするとそこが見えてくるのでは?といった意見がありました。
また、ウェルビーイングの捉え方が他者比較になると、いつまでたっても幸せな人と不幸な人の割合は変わらないのでは?例えば、静岡と東京だと収入が異なるし、居住環境も異なる、という問いに対して、鈴木氏からは地域幸福度(Well-Being)指標をみると東京の都心部と地方では差が大きいため、東京23区内と地方の都市のデータ比べるよりは近隣市町などとと比べてみることで自分のまちの強みを知ることができるのでは、とおっしゃっていました。
みなさんもぜひご自身の住んでいる地域の幸福度をチェックしてみてください。
参考資料出所:パーソル総合研究所・慶應義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」