静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

令和6年度公開講座「多彩な視点から学ぶ伊豆半島の自然と社会」開催のお知らせ

令和6年度公開講座「多彩な視点から学ぶ伊豆半島の自然と社会」

今年も東部サテライトでは、静岡大学公開講座を開催します。タイトルは「多彩な視点から学ぶ伊豆半島の自然と社会」。全5回の講座で、伊豆市青羽根の東部サテライトでの対面のほか、オンラインでも受講できます。詳細につきましてはこちらを御覧ください。

【第1回】2024年9月10日(火) 関係のなかで身近な木の価値をつくる:家具の事例から
【第2回】2024年10月8日(火) 森林水文学からみた日本の森林を取り巻く現状と課題
【第3回】2024年11月19日(火) 狩野川アユと放水路の関係について
【第4回】2024年12月11日(水) 狩野川河口部における微小生物の生態~海の水と川の水が混ざるところ~
【第5回】2025年2月18日(火) 静岡における歴史文化を活かした発酵と巡礼ツーリズム 

お申し込みはこちらのフォームから受け付けております。
https://forms.gle/oHzAoXusEgbgQH9T7

連続ラジオ講座「集まれ!静大三余塾」(2024年4月~6月)放送のお知らせ

「集まれ!静大三余塾」毎週月曜日16:15-16:30放送

伊豆市コミュニティーFM「FMIS(エフ エムイズ 87.2MHz)」にて、毎週月曜日16:15~16:30放送(再放送木曜日11:30~11:45)、沼津信用金庫さん&静岡大学未来社会デザイン機構提供の連続ラジオ講座「集まれ!静大三余塾」。2024年4月~6月放送のお知らせです。

今回のタイトルは「美しい伊豆創造センターの多彩な仲間たち」。ジオパークを舞台に伊豆半島の観光・地域活性化を目指す「美しい伊豆創造センター」の職員の方からお話をいただきます。

美しい伊豆創造センターは、前回お話をいただいたジオパーク研究員以外に、県や伊豆半島の市町、交通事業者からいらしている職員の方で構成されています。多様なバックグラウンドを持つ職員のみなさんから出身地域についてや伊豆半島で気になること、皆に知ってほしい秘話などを話していただきます。

伊豆市コミュニティFMですが、インターネットで全国どこでも聴くことができますよ!

www.jcbasimul.com

 

もっと知ってほしい「オートクラフト・IZU」のこと!

手で漕ぐタイプの「インクルーシブ自転車」

最近、「ナス・CAR」「キューカンbike」でバズっているオートクラフト・IZUさん。
全国で唯一のおもしろ自転車製造販売会社で、その本社&工場は伊豆市修善寺にあります。
2年前、Xで修善寺に会社があることを知った私は「大学」という虎の威を借り、工場見学に行っても良いかを尋ねたところ、快くOKをいただきました。
お話をする中で、専務の高田様には、おもしろ自転車を地域貢献にいかしたいという想い、おもしろ自転車を使用した遊び場管理のスタッフの子どもとの関わりによる変化、おもしろ自転車を乗った幼児と乗っていない幼児の補助輪なしでの自転車運転の習得についてなど、大学の資源をいかした連携ができるのではないかということがありました。
こちらの力不足もあり、すべてに取り組むことができる状況ではないですが、東部サテライト常駐の内山先生の専門が地域福祉であることから、地域の複合施設である「ふらっと月ヶ瀬」さんでの大学生のフィールドワークとして、おもしろ自転車を使った障がいのある人、高齢者、児童との交流というイベントをおこないました。

toubusatellite.hateblo.jp

オートクラフト・IZUさんでは、現在、誰もが楽しむことのできる「インクルーシブ自転車」の開発をしています。障がいのある人、高齢者向け、というものではなく「誰もが楽しむことができる」自転車です。沼津視覚特別支援学校では、体験会をおこない

toubusatellite.hateblo.jpばバランス感覚を養う訓練になるのでは?といった気づきや、自分の力で「風を感じる」ことの素晴らしさに感動しました。
インクルーシブ自転車の開発を含め、おもしろ自転車の持つポテンシャルをいかしていくために、オートクラフトさんと順天堂大学病院の理学療法士で絵本作家の河原さん、内山先生で定期的なミーティングもおこなっています。

toubusatellite.hateblo.jp

技術の高さ、オリジナリティといった製品の魅力もさることながら、私は「地元の企業」としてオートクラフト・IZUさんに注目をしています。
令和4年の出生数が87人という少子高齢化が加速する伊豆市。原因の一つは「働く場所」がないことだと思います。
専務の高田様をはじめ、スタッフの方がおもしろ自転車を愛し、伊豆を好きなこと(グルメに大変お詳しいです!)が話していて伝わってきます。
ここで働きたい、という問い合わせもあるそうで、こうした魅力ある企業が地元にあることは伊豆の誇りです。今後ともよろしくお願いいたします。

20240318 FMIS「集まれ!静大三余塾」ゲスト 東部サテライト石川&木村

東部サテライト近くのジオスポットを紹介します!

今クールのテーマは「ジオパークのひみつ」ということで、静岡大学東部サテライトスタッフの石川&木村が、伊豆市青羽根にある東部サテライトに近いジオスポットを二つ紹介しました。
まずは、昨年9月より東部サテライトのスタッフとして活躍している木村さんの紹介から。木村さんは伊豆市瓜生野育ち、アメリカ暮らしを経て、大好きな伊豆に戻ってきました!ラジオでは紹介していませんでしたが、カエルや虫が好きなので、カエル談義をしたい方、ぜひサテライトに遊びに来てください。

旭滝

東部サテライトから車で10分くらいのところにある旭滝は、みんな大好き「柱状節理(火山から流れ出た溶岩が冷えて固まり縮む際に規則的な5角形や6角形の柱状の割れ目になるもの)」が見られる滝です。人工的な石垣の様に見えますが、自然地形で、鉛筆を束ねて上から見たような形になっています。落差のある迫力のある滝ですが、ひっそりとしていて、穴場スポットです。先日、岸田首相も訪れています!滝の前は、虚無僧(深い編笠をかぶり、尺八を吹きながら行脚する僧)のお寺があったそうで、近くの龍泉寺というお寺には、以前修禅寺の裏にいたヤギがいます。

石積み?いえいえ、自然にできた地形「柱状節理」です。

梶山のタービダイト

東部サテライトから一番近いジオサイトで、車で5分ほど。伊豆、静岡を代表するクラフトビール「ベアードビール」の工場の敷地から狩野川を挟んで対岸に見える「源氏パイ」のような縞々の地層が、梶山のタービダイトです。これは伊豆半島が遠く南の海の海底火山だった頃、海底火山から噴出した火山灰や軽石が積もり、海底の斜面上を流れ下る「乱泥流」によってできた地層で、プレートの動きで伊豆半島が隆起した際に地上に姿をあらわしました。
ここを観察したい時は、ベアードビールさんの駐車場を許可を得て利用することができます。工場の3階がタップルームになっているので、タービダイトを見た後は、おいしいクラフトビールをぜひご購入ください。工場見学も可能(詳しくはベアードビールさんにお問い合わせください)で、先日行きましたがオススメします!

パイのような縞々の地形、梶山のタービダイト

松崎町室岩洞

(他におススメのジオサイトは?というパーソナリティ鈴木さんからの質問)
伊豆市ではないですが、松崎町の「室岩洞」は迫力があってオススメ。石材として使用されていた伊豆石の石切り場跡です。駐車場も整備されているので、松崎町観光の際にはぜひ。(3月現在、松崎町は町を代表する春の一大イベント「田んぼをつかった花畑」開催中です。)

来年度東部サテライト公開講座のお知らせ

東部サテライトでは、静岡大学公開講座を開催しています。第三回目となる来年度の講座は
9/10 「関係のなかで身近な木の価値をつくる:家具の事例から」
10/8 「森林水文学からみた日本の森林を取り巻く現状と課題」
11/19 「狩野川アユと放水路の関係について」
12/11 「狩野川河口部における微小生物の生態~海の水と川の水が混ざるところ~」
 2/18 「静岡における歴史文化を活かした発酵と巡礼ツーリズム」
開始は9月からになりますが、4/1からの申し込みとなります。詳細はこのブログでお知らせいたします。
伊豆を研究のフィールドとしている静岡大学の先生はいるものの、その成果を知る機会はあまりないので(これをしていくのが私たちの務めでもあります)、貴重な時間になると思います。ご興味のある方、ぜひお申し込みください。

20240311 FMIS「集まれ!静大三余塾」ゲスト ジオパーク研究員 佐々木惠子さん 3/3

伊豆急行さんとの事業「SDGsトレイン」車内の様子

前回に続き、ジオパーク研究員の佐々木さんからのお話です。

ジオパークの3つの柱、「保全」「教育」「SDGs

ジオパークの研究員の仕事に就くまでは、ジオパークの役割は「保全」が大きいと思っていたが、ジオパークは「保全」、地域の資源の大切さを教える「教育」、「持続可能な社会の実現」という大きな3つの柱で成り立っており、保全はもちろんのこと、教育やSDGsについてに力を入れている。
大切なパートナーである地域のジオガイドさんと連携し、伊豆半島地域資源を子どもたちにワークショップやトークショーなどをおこなうことで情報を周知をしている。
伊豆箱根鉄道さんとは、沼津商業高校さんの協力によりジオスポットを紹介する「いずっぱこGEO TRAIN」を運行。伊豆急行さんとは、伊豆半島の持続可能な活動に取り組む人や団体を社内の掲示で紹介する「SDGsトレイン」を運行している。ジオパークSDGsにどのように貢献できるかの書籍も出しているとのことでした。
ジオパークは認定されたらずっとジオパークとして指定されるわけではなく、4年ごとの審査がある。前回審査時に指摘された問題点がクリアできているかを示さなければならず、審査に受かってから2年後には国内の審査、次の年はユネスコの審査員の審査があり、きちんと対応しないとジオパークでなくなってしまう。以前は地質的に大事なところを守っていこうというところが大きかったが、今は地質と生態と文化、すべてに対応した持続可能なものにしていくことを目的としているとのことです。

「明るい森」と「暗い森」

使われなくなった森林をもう一度人が使えるようにしていくため、南伊豆町では広葉樹を植える取り組みをNPO法人「伊豆未来塾」さんがおこなっている。そこで、広葉樹を植えることがなぜ良いのかということについて、子どもに伝えるための講演を(佐々木さんが)おこなう。木材需要のために植林されたスギやヒノキといった針葉樹の人工林には人が近づかなくなる。そのことで、人間と自然の関わりが少なくなってきた。クヌギといった広葉樹を植えることで、動植物が増え、そこで椎茸栽培といった営みも生まれ、人と自然の関わりが増えてくる。
子どもたちには、植物名を当てるクイズなどをしながら、いろいろな植物を紹介することで「明るい森」と「暗い森」の違いを学んでもらう。針葉樹は年中葉があるので、森に日が入らず、落ちた葉が分解されないことから土中の種から芽が出ず、暗い森のままになる。広葉樹だと冬には葉が落ちて陽が入り、夏も葉が薄いので陽が入る。葉が分解されることで、土中の種から芽が出て、たくさんの生き物が集まる。
ガイドツアーなどを通して、こうしたことを知ることで、これまでと違う認識ができるようになる。これからも伊豆半島の大切な資源を情報発信していていくため、ワークショップやトークショーなどをおこなうので、伊豆半島ジオパークのホームページをチェックしてみてくださいとのことでした。

佐々木さん、3週に渡りありがとうございました。昨年10月にジオパーク研究員に着任された佐々木さん、東部サテライトのイベントにもご参加いただき、その知識の広さに圧倒されています。サテライトでも子どもたちに自然の大切さを学ぶイベントをおこなっていきたいので、今後ともよろしくお願いいたします。

20240304 FMIS「集まれ!静大三余塾」ゲスト ジオパーク研究員 佐々木惠子さん 2/3

山焼きによって維持されている「草原」、大室山(小山先生撮影)

前回に続き、ジオパーク研究員佐々木さんからお話をいただきます。生態系が専門の佐々木さん、東部サテライトで開催した野鳥観察会

toubusatellite.hateblo.jpに参加してくださったお話からスタート。
(伊豆半島で珍しい野鳥は?)
自分は植生が専門だが、伊豆半島はタカなど猛禽類が面白いと聞いている。伊豆半島はその成り立ちから、城山などの高い山や崖が多く、高低差があるところを猛禽類は好む。猛禽類の宝庫という視点で山を見てみてほしい。野鳥観察会の下見に同行した際には、ハチを食べる猛禽類「ハチクマ」がいた。ハチクマはスズメバチも食べるとのことです。

伊豆半島の植生、ここが面白い!

伊豆半島は「ブナ林」があるところが面白い。太平洋側は温暖なのでなかなかブナ林がないが、伊豆半島は標高が高いので分布している場所がある。標高が高いところは落葉広葉樹林、低いところは潮風が吹いて暖かいので常緑広葉樹林、海岸には海岸性の植物、海の中は海藻と地形に合った植生が分布している。
日本の面積の66%森林だが、1%草原がある。一番広いのは阿蘇で、各地に点々と存在しているが、伊豆半島には大室山と細野高原という山焼きによって維持される草原があることが面白い。
(山焼きはなぜ必要?)
昔は、牛のエサや肥料、茅葺き屋根の材料として生活に草が必要だった。草原は放っておくと森林になってしまうため、山焼きによって調整をしている。現在は生活上の必要はなくなったが、文化、観光の面から山焼きが残っている。

植生に興味を持ったきっかけと仕事のやりがい

子どもの頃から生き物が好きで、実際にはまったのはアメリカシアトルの高校に通っていた時。園芸の授業があり、ビニールハウスで園芸植物を育てたり、地域の植物を外で観察したり、植物の見分け方を学んだりし、最終的には地域の植物を使って庭園をデザインした。この授業を通して、植物のことを知っていれば、緑豊かな街、都市、住みやすい空間をつくることができると思い、植物に関わる仕事に就きたいと思った。
これまで培ってきた生態学のスキル、知識と情報を集めていかすスキルをいかし、生態のまだ分かっていない伊豆半島に対して、自分が働きかけ、集めた情報を地域の発展のために使っていくことは大きなことだと思う。子どもたちに、イベントやワークショップといった機会を提供することで、自然環境や文化に触れてほしいとのことでした。

次回に続きます。

20240222 ベアードビール「ブルワリーガーデン修善寺」工場見学

静岡クラフトビールの先駆者、ベアードビールさん

豊かな水資源があり、クラフトビールの聖地と言われる静岡県。特に東部地域には多くのブルワリーがあります。その中でも先駆者的なブルワリーが、2000年にブライアンベアード・さゆり夫妻が沼津に設立した「ベアードビール」。東部サテライトの近く、狩野川のほとりにベアードビールのタップルームを併設した工場「ブルワリーガーデン修善寺」があります。農園、キャンプ場も併設する大自然の中のブルワリーです。
近くにお住いの方でも知らない方もいらっしゃり、お連れすると「こんな大きい建物が!」と驚かれます。

狩野川のほとり、キャンプ場も併設するブルワリー

今回、伊豆市で頑張る企業を知ってほしいという思いから、伊豆未来デザインラボのメンバーで、この「ブルワリーガーデン修善寺」のガイドさん付き工場見学をさせていただきました。
6000リットル/日のビールを作ることができるこの工場。まず、目に入る大きな青い機械は麦芽モルト)を粉砕するモルトミルです(写真を取り忘れてしまいました…)。全体を通してなのですが、これは見学用の模型なのかな?と思うほどに、設備や室内がピカピカでした。

ビールの原料は、麦芽モルト)・ホップ・酵母・水の4つ。早速、「麦芽とは何なのか?」という参加者からの質問があり、その名の通り、麦に芽と根を生やしたものが麦芽で、麦芽の試食をしたところ、ほのかに甘みがありました。
ドイツでは、ビールの原料を大麦・ホップ・水・酵母・に限定したビール純粋令があり、麦を100%使用しますが、そうすると「重く」なるので、「軽い」ビールが好みの日本では、米やコーンスターチを使うことでのど越しの良いビールにしているとのことでした。

こちらは熟成タンク、工場内はとても清潔でピカピカです。

ホップも実物を見せていただきましたが、匂いが…パクチーのような感じでした。ホップはビールに苦味と香りを付けますが、防腐剤の役割もするそうです。ブルワリーガーデン修善寺の畑でも栽培しているそうですが、暑いと花が咲かなく、育てるのはかなり難しいとのことでした。
粉砕されたモルトは水を加えておかゆのような状態に。これをろ過したものが「麦汁」をです。これにホップを入れて煮沸。発酵タンクに入れ、酵母を加えて発酵。のちに熟成タンクに入れて熟成し、瓶詰。瓶の中で二次発酵させるために、温度管理をした部屋で保存し、美味しいベアードビールのできあがりです。

ベアードビールさんでは12種のレギュラーラインナップのほかに、3、40種オリジナルをこれまでに製造。工場の周囲には主に柑橘系の果物を育てている圃場があり、そこで採れた農産物をビールの香りづけや風味付けに使用しています。この日も農園で採れたみかんの処理をスタッフの方がされていました。発酵させることから果物の「甘さ」は特徴が残りにくいので、香りの強い柑橘系が多く使われているそうです。
他には、梅やビワ、ハバネロ!も。地域特産のワサビを使ったビールもあり、スッキリ感が特徴で、お刺身に合うとのことでした。

この日もオレンジの下処理の真っ最中、いい香りが漂っていました。

地域での持続可能なビールづくりをおこなうベアードビールさん。麦汁を搾った後のビール粕は、堆肥として自社農園で使用。循環型農業を実践し、廃水については、微生物を利用した処理により、川の水よりもきれいにした水を放出しています。
ガイドをしてくださったスタッフさんの説明がとても丁寧で、ビールについてとても詳しく、参加者からの質問にも快く答えていただきました。本当にありがとうございます。

社長の想いが詰まった版画によるデザインのラベル

参加者のほとんどがドライバーだったため、タップルームでの試飲はしませんでしたが、みなさんお土産にビールを購入していました。伊豆の自然と共存したこだわりのビールづくり。ぜひ、みなさんに知っていただきたいです。