静岡大学東部サテライトだより

静岡大学東部サテライト「三余塾」の記録・お知らせ

20231124 伊豆ビジネスセミナー 登壇者:西伊豆町まちづくり課長 長島司氏

今回お話をいただいた西伊豆町まちづくり課長 長島司様

高齢化率が静岡県内1位、50%を超えている西伊豆町ですが、地域電子通貨の普及率はほぼ100%!そして、マイナンバーカードの普及率は7割を超え、県内トップなだけでなく、東海地方でトップ。そこには、町役場の方たちと地域の方が協力しながら、新しいことに挑戦していく姿がありました。
今回、11月24日のセミナーでは、西伊豆町がこれまで取り組んできたこと、これから取り組んでいくことについて、西伊豆町まちづくり課長 長島司様からお話をいただきました。

 

イントロダクション 平成の大合併について

平成13年~地方の自立を促すため、政府は地方交付税交付金制度の大幅削減方針を固めました。財政基盤の脆弱な自治体が合併の促進などで対応をしていく中、旧賀茂村と西伊豆町は合併し、平成17年4月1日に人口10790人の新西伊豆町が誕生しました。新たなまちづくりを進める中、多くの課題を抱え、その解決に向けて様々なことに挑戦をしてきました。その中の3つの挑戦
1「財政基盤強化」(ふるさと納税
2「新型コロナウイルス対策」
3「産業振興・人口減少対策」森と海の6次産業化プロジェクト
をお話します。

財政基盤強化(ふるさと納税

財政危機から新たな合併が必要という見解が示された際、合併を受け入れなかった西伊豆町。何もしないでいたら、確実に住民サービスが低下するだろうという状況の中、財政担当者を中心とする役場の若手職員が立ち上がりました。そこに来たのが「ふるさと納税」に関連するお知らせ。早速、役職や部局問わず有志メンバーが集まり、ふるさと納税のプロジェクトチームを結成しました。本業と並行しながら、ふるさと納税の業務に取り組み、頑張りの甲斐があり、その後コンスタントに10億円以上のご寄付をいただいています。ふるさと納税をおこなうことにより、町内の事業者も返礼品の発送を通じて、全国に町の地場産品の PR ができています。

新型コロナウイルス対策(電子地域通貨

西伊豆町の主産業は観光業ですが、高齢化率が県下で一番高いこともあり、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令した翌日には来町を1ヶ月は遠慮してくださいという発表をしました。観光客に依存することなく、町内の消費をどう維持し、観光事業者を守り、いかに人口の流出を防ぐかという新たな課題が生まれ、それを解決する経済対策が必要となりました。そこで取り入れたのが、電子地域通貨「サンセットコイン」。
高齢者が多いこともあり、デジタル的なものは受け入れられないだろうという懸念がありましたが、コロナ禍のこのタイミングに、カードに1万円分を入れて全町民に配布をしたら、町内の消費を促すのと同時に、町民がデジタル化のメリットを感じるのではないだろうかということで、急遽取り入れることにしました。ふるさと納税と同様に部局を横断したプロジェクトチームを結成し、町内企業を一件ずつ訪問して協力を依頼。令和2年4月中旬から5月18日までに町民にサンセットコインカードを1枚ずつ配布しました。
町民や観光客は、町内でお買い物をするたびに、サンセットコインで還元がされ、町内の加盟店にとっては、サンセットコインが町外では使用できないというところから、売上増加につながっているという実績があります。役場としては、例えば給付金事業等を行う場合に、このシステムを利用してすぐに給付が可能となります。今年で導入から4年目。完全に地元に根付き、地域経済に貢献できています。

ふるさと納税とサンセットコイン導入についてのまとめ

2つの課題に対する対応は、小規模自治体であるがゆえのスピード感と、部局・役職の枠を超えた横断的な取り組みにより対応できたのではないかと感じています。西伊豆町役場は横の連携を取りながら、職員の総合力で一つのことにを成し遂げるチームの力がある。しかし、町が解決しなければならない問題というのはまだまだたくさんあります。

「産業振興・人口減少対策」現況の確認

合併当時、平成17年には約1万1000人だった人口は、年に200人ずつ減少し、 現在は7000人弱。高齢化率は毎年上がり、近年地域の活力がなくなっていくのが目に見えて分かります。人口を増やすことは無理としても減少率を緩やかにすることを目標に何か変えなければならないだろうという思いが職員の中から出てきました。
まずは、地域の産業の現状と課題を拾い出すことからスタートしました。
林業:町の面積の約8割が森林、森林管理をおこなう事業所が町内に支店を構え、間伐等による森林整備が進んでいるため、町もバックアップしています。
農業:町内にはわさび農家が何件かあり、「世界農業遺産・日本農業遺産 静岡水わさびの伝統栽培」に認定されています。後継者不足、休耕田増加が課題です。
漁業:後継者不足。令和2年に産地直売所施設「はんばた市場」をオープン。釣った魚をサンセットコインで買い取る「ツッテ西伊豆」が好評です。
上記第一次産業の収入だけでは生活が難しいところが、人材育成の難しさにもつながっています。
製造業:ふるさと納税の返礼品として干物等の需要が増加していますが、従業員が不足。魚のアラなど産業廃棄物を町外へ輸送し処理を委託をしているという状況です。
観光業:長期に滞在できる観光コンテンツが少ない。施設の老朽化や従業員の不足により、宿泊施設は予約はかなりあるのに受け付けられないことは深刻な問題です。
交通:伊豆西海岸には鉄道が通っていません。若者の運転離れもあり、西伊豆への移動が難しくなっています。道路事情から輸送コストがかかるので、企業誘致にとって大変難しい状況となっています。
立地条件の関係などにより、企業を誘致することはほぼ不可能だということを考えると、西伊豆町が今後生きる道としては、埋もれた地域資源をいかして循環型社会を構築し、働く場所を生み出していくという結論に辿りつきました。「森と海の6次産業化プロジェクト」という事業として現在取り組んでいます。

西伊豆の海で捕れた新鮮な魚が並ぶ「はんばた市場」

「産業振興・人口減少対策」森と海の6次産業化プロジェクト

森林整備事業:優れた材質のものは製材して、観光施設の老朽化対策、従業員寮などに利用し、そうでないものはバイオマスボイラーの発電燃料として使用していければと考えています。全国の先進事例も学び、温泉施設のボイラーなどの発電装置に使用するといった計画をしています。

養殖業と循環農業:山の整備とも連携し、豊かな海を復活させながら、養殖事業など育てる漁業を目指していくことが必要と考え、海藻の養殖に着手しています。田子地区や安良里地区では、鰹節や潮鰹が製造されており、ふるさと納税の返礼品では干物が人気ですが、これらの製造業者から大量の魚のあらが出ます。町内で処理できないかと、堆肥化の実証実験をおこなっており。これが実用化されるとゴミの減量化や町外への搬出がいらなくなるので、コストと二酸化炭素の削減が可能になります。

観光について:持続可能性を高める観光地づくりのために、例えば、温泉の源泉温度が低いところについて、バイオマス発電で生産された燃料によって加温するといった取り組みを進めていきたいです。循環農業によって、栽培した農作物をホテル等で食材として提供するといった流れができれば、観光客の皆様にもサステナブルな取り組みについてお伝えでき、誘客につながると思います。
間伐といった山の手入れをすることで視界が開け、富士山や駿河湾が見えたり、夕日のロケーションが良かったり、いい場所があるので、そういうところを観光に結びつくようなツアーも今後展開できるのではないかと考えています。
観光の大きな課題である従業員の不足については、特に若い人を受け入れるには、魅力的な住まいが必要と考えています。

人材確保と人材育成について:地域おこし協力隊員を対象に個人面談などを実施しながら定住に結びつくような取り組みをしており、協力隊の定住率は全国よりも高いです。6次産業化プロジェクトにも地域おこし協力隊が関わり、計11名が移住。今後、6次産業化プロジェクトの拡大を人口の維持につなげていきたいと考えています。

西伊豆といえば「サンセット」、大田子海岸のゴジラ岩はフォトスポット

まとめ

県内で最も高齢化率の高い町、西伊豆町。地域の活力の低下、コロナの影響により疲弊してる企業が少なくないと感じています。解決するためには、地域の行政がリーダーシップを発揮していくことが重要であり、西伊豆町役場は日々の業務を勤めながら、常に人口の維持、地方創生の意識を持ち続けていかなければならないと考えています。そのためにも横の連携をさらに強化し、過疎地域からの脱却という高い目標を持ちながら「森と海の6次産業化」に取り組んでいきたいと思います。


質疑応答から

Q サンセットコインの導入にともなうプロジェクトチームについて、多くの職員が参加したということですが、そんなに簡単に集まるものですか?
A その前にふるさと納税のプロジェクトチームがあり、最終的に多くののふるさと納税をいただけるようになりました。その成功体験もあり、何かをやろうという時に声をかけると皆さんが集まってくれるようになりました。

Q 西伊豆町の宿泊・日帰りの観光客数の動向は?
A 日帰りのお客様に関してはそれなりに回復してきていますが、宿泊客数に関しは、予約が取れない(人手不足などにより)というのがまず問題。西伊豆町は団体客を対象とした昔のマスツーリズムの旅行形態になっているので、団体客が復活しないと宿泊客が伸びないという現状があります。最近はほぼ毎日、大型の団体バスが停まるようなりました。
受け入れ体制を整えていくためにも、従業員寮の整備など、空き家も活用したいと思っていますが、外から来た人がいきなり地域のコミュニティに入り馴染めるかというのは難しい。例えば、従業員寮とかに空き家を整備をして、新しい人にはそこで3年間ぐらい滞在していただいてそのあと移住するようなワンクッションを置く仕組み作りを考えています。

Q サンセットコインについて、特に高齢者については、情報関係が難しいということをデジタルを活用した高齢者の就労支援を研究をしていて感じています。サンセットコインの町民全体に対する使用率はどれくらいですか?
A 最初に1万円チャージしたものを配布しており、使っていない人が何人かと数えるぐらい。導入当初はこんなもの使えるかという声がありましたが、今ではみなさん利用しています。それまでは町外のスーパーに買物に行っていた方が、導入後は町内で買い物をするようになったとのことです。

Q 旅行客(町外の人)にもサンセットコインのカードを配布していますか?
A 町民用サンセットコインのほかに、イベント用に町外の方用のサンセットコインカードがあります。都内で西伊豆町の物産を扱っている何店舗かでは、イベント等をやる時にサンセットコインを配布しています。西伊豆町内でしか使えないので、西伊豆町に行くしかない。
面白い取り組みとしては、「ツッテ西伊豆」というのがあります。旅行客が船代を払って釣り船に乗り、船長さんに釣りのアドバイスをもらって魚を釣る。その釣った魚は「はんばた市場」でサンセットコインで買い取り、その魚は店頭に並びます。お客さんは釣った魚の利益でお土産買ったりできるので、誰も損をする人がいません。

Q サンセットコインの使用データはビックデータとして何かに利用できるのでしょうか?
A 例えば、素泊まりの観光客が増えているので、飲食店と宿泊事業者がコラボして、情報を共有できると、飲食店での仕込み量の目安になり、食品ロスを防ぐことができる。地域の中でいろんな活用の仕方を模索している状況です。

 

西伊豆に行かれる際には、はんばた市場に寄った後に、月ヶ瀬の道の駅でお土産を買って帰って伊豆を満喫していただければ、というコーディネーターのNPOサプライズ飯倉さんの言葉で締めくくられた今回のセミナー。
少子高齢化の進行、第一次産業の担い手不足、観光業のコロナ禍の打撃など、他の地域も直面しているであろう課題に対し、役場の職員の方が一丸となって取り組む姿に、これからも西伊豆町の挑戦から目が離せないと思いました。